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検証高知赤十字病院脳死臓器摘出

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五月二十四日、厚生省は高知赤十字病院で二月二十八日に行われた脳死患者からの臓器提供について、公衆衛生審議会臓器移植専門委員会が検証した結果を公表した。そこでは患者に対する救命治療、脳死判定作業などについて、すべて問題はなかったとされた。しかし、本当にそうなのか。移植実施直後から脳神経外科医らからは、数々の疑問の声が出されてきた。専門家の証言などをもとに、あらためて問題を考えてみたい。

報道されなかった真実(1)

施されていない基本的救急処置

高知赤十字病院における脳死ドナーからの臓器摘出に始まる一連の臓器移植は「臓器移植法施行後初」の脳死移植となった。だが「日本初」の脳死臓器移植というわけではない。実は法施行以前から何例も「脳死臓器移植」は行われ、その中でドナーの命が軽んじられてきた。「高知」ではどうだったのだろうか。脳死移植が残してきた問題を簡単に振り返った上で、考察してみよう。

脳死ドナーは「作られる」

日本初の心臓移植である一九六八(昭和四十三)年の「和田心臓移植」は、脳死ではなくまだ十分に救命の余地があった患者がドナーにされ、移植が必要なほど重篤ではなかった患者に心臓移植が行われ、両者の命が奪われる「殺人事件」だった。
 これが原因となり臓器移植、特に脳死患者からの移植は長くタブー視されてきた。しかし、八〇年代半ばから九〇年代初頭にかけて、「みせかけの救命治療」や「いいかげんな脳死判定」などで脳死ドナーを「作り出した」ずさんな臓器移植が各地で行われるようになった。
 そして、八四年の筑波大学付属病院における「脳死」患者からの、膵臓・腎臓の同時移植をはじめ、全国で八件、二十数人の医師が殺人や傷害致死の容疑で告発される事件があいついだ。心臓死が法律上も人の死であった当時、心停止に至らない脳死患者から臓器を摘出すれば、殺人罪に問われるのは当然だった。
 しかし一昨年秋、臓器移植を行う場合に限って「脳死した者の身体」からの臓器摘出を認めるという臓器移植法が施行され、脳死移植で殺人罪に問われることはなくなった。
 八件の告発案件は長く捜査が保留にされた後、昨年四月、移植法施行以前に起きた事件であるにもかかわらず、同法の解釈に沿って二件が「嫌疑なし」、六件が証拠不十分で「嫌疑不十分」とされ、医師の罪は問われず「灰色決着」に終わった。

移植法はドナーを守らない

臓器移植法制定の大きな目的は「移植医を殺人罪から守り、合法的に脳死移植を推進する」ことにある。決して脳死患者の命や、人権を守るためではない。医師に対する罰則規定は非常に甘く、たとえば虚偽の脳死判定を行っても「三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」でしかない。
 一方、ドナーへの最善の救命治療を怠っても、処罰の規定はない。和田移植以来の過ちが厳しく反省されることもなく、脳死移植推進だけが目的の法律が制定された。
 先の八件以外にも「脳死」「臓器移植」に関連した殺人まがいの事件は多数起こった。昨年三月には「脳死」からの腎臓摘出で、遺族が主治医を殺人容疑で訴える事件が沖縄で起こっている。このような歴史的背景、和田移植以来何も変わっていない移植医療の実態の中で、今回の「第一例」も行われたのである。

救命より診断を優先

二月二十二日午後十一時九分。自宅から山道を約一時間かけ、ドナーとなった女性患者は夫が運転する自家用車から救急車に乗り継ぎ、病院に到着。女性は深い昏睡状態で、呼吸は下顎呼吸(下あごをつきだして苦しそうに息をする状態)だった、と報告されている。
「救急医療の基本的な処置として、到着時に昏睡状態で下顎呼吸であったなら、救急処置としてただちに気管内挿管(※注1)により、気道の確保をしなければならないはず」(脳神経外科医・近藤孝氏)
 にもかかわらず、そういった救急処置はされず、病院到着から四分後には頭部CT(コンピューター断層撮影)検査を実施。
 近藤医師は「この患者さんの場合、昏睡状態で血圧も高く、下顎呼吸で瞳孔不同(左右の瞳の大きさが違う状態)だった。経験ある救急医なら、まず脳内出血を疑う。投薬により血圧を下げ、気管内挿管を行った後、酸素をつないだAMBUバッグ(手動の人工呼吸器)を用意。その次に頭部CT検査に向かうのがベストの治療だったと思う。診断を急ぐあまり、初期の救命治療をしないで頭部CTに進んだのは大きな過ち」と指摘する。
 CT検査開始の二分後、全身けいれんが起こり、けいれんを抑える「抗けいれん剤」を投与。自発呼吸(自力による呼吸)が消失した。
 阿部知子医師(小児科医・脳死臓器移植を考える委員会代表)は、次のように指摘する。「二分後といえばCT検査の最中のはず。そこで呼吸が停止している。それほど重篤なのに、なぜ呼吸困難の状態で到着したときすぐに、救命の基本である呼吸の確保が行われなかったのか。きちんと呼吸管理をせずに、抗けいれん剤を投与したため、呼吸停止状態になったのではないか」
 救急医療の現場では、診断以前にまず患者の状態に対処して、初期治療を行うのが絶対要件であるという。くも膜下出血の場合も、初期治療のあり方が生死を決定づけるという。ところがなぜ、通常の手順で治療を行わず、診断が優先されたのか。四月十二日、日本救急医学会の検証作業班の会議でも、病院到着後の「六分間の初期治療」に議論が集中したという。

治療放棄の疑いも

同病院の救急医一人と脳外科医二人が立ち会い、CT検査の結果から「最重症のくも膜下出血(※注2)」と判断。六×四×五aの血腫(血のかたまり)を確認。医師は家族に「くも膜下出血と脳内出血で、恐らく脳動脈瘤の破裂。脳圧を下げる薬を使い、症状が少しでも改善すれば検査。そして手術になるが、その可能性は低く今は切迫脳死(脳死が近づいている)の状態」と説明。
 十一時四十分にHCU(高度治療室)に入院。しばらくして弱い自発呼吸がよみがえった。ところが「症状が少しでも改善したら検査と手術」のはずが、患者は三時間あまり放置され、翌二十三日午前三時に、自発呼吸が消失し瞳孔散大(瞳孔が開いた状態)した。
「脳外科医の一般的な知識として、脳傷害の場合、たとえ入院時に重症でも、その後、一度止まった呼吸が再び戻るなど、急速に改善がみられる症例は多い。なぜ症状改善後に検査も手術もされなかったのか疑問。治療放棄の疑いもある」(近藤医師)

最新の設備の中でなぜ

CT検査中に患者がけいれんを起こした原因を、病院は後に記者会見で「おそらく(脳動脈瘤の)再破裂」と推測で説明している。「当然すぐに再撮影をして、確証診断をするべき。どうして行わず、推測で済ませたのか」と医師らは疑問をなげかける。
「三日後の二度目のCT検査では「血腫の増大はなかった」のだから、動脈瘤の再破裂は起こっていないはず。「重症」を印象づけるために用意した言葉にすぎないのではないか。血腫の除去手術は、可能だったのではないか(近藤医師)」
 また、病院にはCTより高性能で正確な診断が可能なMRI(磁気共鳴映像法)を備えていたにもかかわらず、使用されなかったのはおかしい、という指摘もある。
 なぜ、最も大切とされる初歩的な救命治療が行われず、診断もそこそこに「手術は無理」とされたのか。「移植医療の新時代の幕開け」と宣伝された「高知」だが、実際には「過去の再現」だった可能性は高い。


(※注1)気管内挿管 手動の人工呼吸器を使い、呼吸困難な状態の患者の口から空気や酸素を送り込む処置。

(※注2)くも膜下出血 脳の表面を覆っているくも膜と軟膜の間(くも膜下腔)に出血を起こす病気。出血の原因のほとんどは、脳動脈瘤の破裂。ひどくなると出血が脳の内部に侵入し脳内出血を併発する。

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