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基調発題
大本総長・人類愛善会名誉会長 廣瀬靜水 |
〈序〉 (長生殿で行われた「歌祭」) 「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣つくるその八重垣を」 この歌は日本最古の古典『古事記』に記された、日本で最初に歌われた短歌だといわれています。1993年11月、第1回「世界宗教者の祈りとフォーラム」が綾部で催され、その2日目、大本神殿「長生殿」で「歌祭による平和の祈り」が行われました。この「歌祭」とは、先に述べた短歌を中心に置いて「歌垣」を作り、神のみ心を和めるとともに村人の心をも和め、一切の罪悪を祓う平和の祭典として、上代から中古、日本で広く行われていたものであります。大本教祖出口王仁三郎師はこの平和の祭典が長く中絶していたことを惜しみ、1935年、この「歌祭」を復興しました。 この歌の内義を、出口王仁三郎師は“どこの国にも多くの有形無形の障壁が幾重にも重なる黒雲を漂わしている。国と国、人と人との間にある七重八重の垣根を取り払って、神人和楽の平和の世界を築こう”という意味だと教えております。 (ローマ教皇の言葉) 2001年12月8日、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世聖下は「世界平和の日」に際し、メッセージを次の言葉で始めていられます。「今年の『世界平和の日』は、あの9月11日の悲惨な出来事が投げかけた、暗い影のうちに迎えることになってしまいました。あの日、恐ろしい犯罪が発生しました。ほんの短い時間の間に、多様な民族的背景をもった数千人の罪もない人々が殺りくされたのです。それ以来、世界中の人々が人間の弱さをあらためて感じ、将来への新たな恐れを抱くようになってしまいました。...」 この21世紀初めの世界はまさに教皇聖下のお言葉の通り、9月11日の事件が象徴するように、世界全体に“暗い影”、厚い黒雲が漂っています。 (世界の危機的状況) 21世紀を迎えた世界は、人類はおろかすべての生物の存続さえ危ぶまれる、絶体絶命の世の替わり目に遭遇しています。 大規模テロに端を発した報復の連鎖は、核の脅威の再燃とともに、新たな戦争の火種が今にも発火せんとする様相を呈しています。 紛争の原因は、民族や、国家のエゴイズム、さらに過激な狂信行動、政治と経済の混迷、差別と抑圧などが複雑にからみあって影響しています。 人口の急激な増加とともに、急速な経済成長は貧富の差を拡大し、貧しい国では毎日数万人が餓死し、10億人が飢餓状態で苦しんでいます。その一方で、富める国は飽食を尽くし、化学物質などによる現代病が蔓延しています。そのほかエイズウイルス感染者は世界で4000万人を数え、2001年だけで300万人が死亡しています。 異常気象による天災もあとをたちません。火山噴火、地震などによる自然災害が各地で頻発し、大洪水だけでもこの4年間で約30カ所、被災者は2億人を超しています。しかしこの異常気象は、人類自らがもたらしたものであります。 人類は産業革命後、空前の科学技術革命の時代に直面しています。いわゆる火力文明は、大自然が数億年かけて蓄積した化石燃料(石炭・石油等)を使い果たし、あと数十年で枯渇します。そのために引き起こされた地球温暖化の影響により、海面上昇はこの100年間で10億人の生活を奪います。全陸地の4分の1で砂漠化が進行し、“環境難民”が世界中で大量に発生しています。生命の源泉といわれる森林もとめどなく消失しつづけています。 また20世紀は、物理科学が急速に進展した世紀であり、地球上では自然には起こり得ない核反応を人為的に起こし、「核の時代」をもたらしました。広島と長崎の被爆は、全人類が「種の絶滅」という共通の運命をともにしていることを知らしめました。 つづく21世紀は、遺伝子解明に伴う生命科学が急速に進展し、クローン技術を用いて、男女両性の関与を不必要とする、高等動物ではありえない無性生殖による生命誕生の危険が迫っています。また人間を細胞レベル・遺伝子レベルで改変しようとする研究が進められて、進化の法則を離れた人類の未来は「種の絶滅」へ向かうという専門家も少なくありません。 《生命の尊厳》 (万物の生命の尊さ) 神と人、そして大自然、生きとし生けるあらゆるものには神秘的な生命の力、活動力が宿っています。人知でははかりしれないその整然とした営みに気づいた多くの科学者は、そこに偉大な至高の存在を感得します。宗教者はその活動力の源泉を肌で感じて、畏敬し、感謝の念をいだいています。 また最近の生命研究が遺伝子について明らかにしてきたことは、地球上の生物はみなDNAを共有する仲間であることです。また、生物はこの地球上でそれぞれ単独で生きているのではなく、環境との関係の中で、また生物同士の関係の中で「共生」していることです。個体および種レベルにおける“多様性”、そして環境をも含めた生態系の“多様性”を維持することが、人間を含むすべての生物が存続していくための基礎だということであります。つまり、地球上の人間、動物をはじめとするすべての生物、さらには山川草木をも含めたすべてが渾然一体と“生きている”ことが明らかとなっています。そのサイクルの中で、すべてのものが土に帰り、また土から生まれて、子々孫々に生命が受け継がれていきます。 しかし20世紀は、地球上の生物にとっては非常に苛酷な世紀でありました。開発による自然破壊や地球環境の悪化の影響を受けて、生物の多様性が減少し、地球史上における最大の「種の大量絶滅」がおきようとしています。 (人間の生命の尊さ) 20世紀はまた、人類にとっても、悲劇的な世紀でありました。戦争で命を落とした人は1億数千万人を越し、第2次大戦後も争いは絶えていません。1200回を越す戦争・武力紛争により5000万人の尊い命が失われています。 日本では古来、人は天地の花、万物の霊長といわれています。出口王仁三郎師は1904年、「神より見れば一人の生命も大地より重しとなしたもう。その重きところの生命をとり合う戦いこそ、悪の骨頂である」と述べ、人間の命が戦争によって奪われることを深く歎いています。20世紀が「戦争の世紀」であったとするなら、この21世紀は人間と万物の「生命輝く世紀」でありたいと願っています。 (「生命の尊厳」は平和の礎) 預言者モーゼは「汝、殺すなかれ」といさめ給いました。釈尊は生きとし生けるものすべてを我欲のために殺してはならないとして「不殺生」を説かれました。こうした慈悲心や隣人愛にもとづく教えは、洋の東西を問わず、宗教を問わず、人類共通の基本的倫理であり、その意味で「生命の尊厳」の尊重こそ、世界平和の礎であります。 《宗教者の和解と連帯》 (宗教者の理想は一つ) いずれの宗教も「愛」や「慈悲」を説き、天国の楽園をこの地上に建設し、人生に光明を、安心立命を与えようとする目的に変わりはありません。宗教的儀式や教義の言葉は異なろうとも、平和を願うその理想は一つです。 (「世界宗教連合会」発会にいたる聖師の理想) 出口王仁三郎師は1924年、「東アジアの原野を開拓し、人口食糧問題の解決を図り、もって東アジアの動乱を防ぎたい」との言葉を残して、日本から蒙古(現・中国東北部、内モンゴル自治区)へ渡りました。最終的にはかの地に〈宗教的楽土〉を建設したいという壮大な夢を描いていました。その夢は半ばにして破れましたが、しかしその夢が新たな発想をうみ、1925年、次のように述べ、中国の北京で「世界宗教連合会」を発会しました。「人類愛善会」の前身であります。 「世界人類の平和と幸福をもたらすためには、どうしても人心の和合が先決問題で、それには教えをもって世界の同胞が結合し、共に天地の経綸を行わねばならないのである。世界の統一は武力や権力でやった場合は、先に力が出た時はまた一方を圧倒して争乱の絶え間なく、永久の平和を招来することは望まれない。だからどうしても統一は精神的宗教的道義的に経過を進めなくてはならないのである」 万物の根源は至高者に発する。この理念は、神は元は一株であり、人類は本来兄弟同胞、一心同体であるという「万教同根」「人類愛善」の思想であります。こうした理念にもとづき、人種や国家や宗教等、あらゆる障壁を越えて、地上永遠の平和世界〈宗教的楽土〉建設を使命とする国際的平和運動が始まりました。世界の宗教者の和解と連帯こそ至上課題であります。 (人心の善導、人類の改心は、全宗教者の使命) たとえ制度や法律がかわろうとも、人心が改まらない限り、戦争・紛争はこの世からなくなることはありません。すべての原因は人間の心にあります。その意味でも、人類の「改心」のため、諸宗教間の対話と和解を深め、さらに異なった文化の間の対話、交流を進め、霊性の向上、思想の善導をはかる精神的道義的指導者としての宗教者の使命はきわめて重大であります。 《21世紀は世界連邦の時代》 (「世界連邦」は人類の叡智) 各国の自治を尊重し、文化の多様性を認めあって「平和的共存」することを目指す「世界連邦」的枠組みの構築は、地球時代を迎えた人類が生き残るための叡智であります。 「共生」という理念は今日一般に、自然環境を守るために、自然と人間の共存のあり方において使われていますが、広義にいえば、人間と人間、民族と民族、宗教と宗教、さらには国家と国家との共栄すべき姿をもさします。互いがそれぞれの違いを尊重し、認めあいながら、助けあい、栄えあっていくあり方が「共生」といえましょう。 戦後、日本の宗教者は、広島・長崎の地獄的体験から、このような惨禍が、再びいかなる国、いかなる民族にもあってはならないと考え、戦争のない公正な恒久平和実現を至上課題として、国境や民族を超えた世界連邦運動に取り組んできました。 21世紀を迎え、人口の爆発的増加、貧富の差の拡大、食糧やエネルギーの枯渇、温暖化をはじめとした地球環境の悪化、地域紛争の続発、武器の氾濫、テロとの戦いなど、世界が抱える危機的問題を考えれば、世界法に基づく、新しい世界秩序、すなわち、各国の自治を尊重しつつ「共生の世界」実現をめざす世界連邦的平和の枠組みを強化することは、夢どころか切実な現実的課題となっています。国際刑事裁判所の創設は、21世紀が世界連邦の幕開けを意味する新しい歴史のはじまりといえます。 〈最後に〉 21世紀は「人間とは何か」「人生の真目的とは何か」が根源的に問われています。人類共通の目的はまぎれもなく「世界平和の実現」でありましょう。来たる世代の子供たちのためにも、穏やかで平和な希望に満ちた未来社会を築くことであります。それを達成できるのは人間であります。神に代わって天地経綸の司宰者としての使命を託された人間は、人類と万物の生命輝く共生の世界実現をめざして、積極的に挑戦しなければなりません。本日は短時間ではありますが、諸先生の叡智とご協力によって、この1日が人類史に残る1日となることを期待してやみません。 なおこの21世紀は「アジアの輝く世紀」であってほしいと願うものであります。世界連邦実現もアジア諸国の動向がかぎをにぎっているといえます。出口王仁三郎師が人類の精神的融和をはかり、世界平和への第一歩を踏み出したのもアジアの地でありました。大本・人類愛善会は世界連邦運動への現実的貢献をめざし、明日の第4回アジア国際会議において、「世界平和はアジアから」として、「アジア連合」発足に向けての第一歩を踏み出すことにしたいと願っています。 (以上) |