昭和39年、東京・日本橋の壺中居(こちゅうきょ)で、出口直日(三代教主)の作品が初めて広く世に問われる時がきた。作陶を始めてから15年。

 作品展の会場には浜田庄司(陶芸家・人間国宝)、磯野風船子(ふうせんし)(日本陶磁協会常任理事)、白洲正子(随筆・評論家)、バーナード・リーチ(陶芸家)など当代を代表する陶芸家・評論家をはじめ松本清張、五味康祐など作家の姿もあった。

 展示と同時に何点かは販売もした。初日午前中にほとんどの品に赤札がついた。同じ時に近くで個展をしていた棟方志功(版画家)は少し遅れて来場。自分が手に入れたいと思う品4点すべてに赤札がついており、肩を落とした。しかし諦めきれない棟方は「三代さん(直日)は絵も素晴らしいですね。いつでも結構ですから、扇面の表紙にナデシコを描いていただくようにお願いして下さい」と関係者に依頼して会場を後にした。

 当の直日は壺中居の店主に対し、「こんなものを並べまして皆さんにえらいごめいわくをおかけしました」と小さくなっていた。そして会う人ごとに頭を下げ、「人騒がせなことをいたしまして」と恐縮するのだった。会場入りについても「清水の舞台から飛び降りるつもりの勇気を出して今日は伺わしていただきました」との心境だった。

 作品を世に問うなどの心境とは無縁の直日にとって、個展の開催自体思いもよらないことだった。

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出口直日作の茶盌「呉須絵二本松文(ごすえにほんまつもん)」。
作家・松本清張は「作品は華麗ではないが、たとえば、山村の女性の手になったような、
何ともいえない滋味がある。それに吸い込まれそうである」と評した



 加藤土師萌(はじめ)(陶芸家・人間国宝)は一巡して「何という楽しい作品でしょうね、一つ一つを本当に楽しんで作っておられる。われわれ専門家には、とてもこのような楽しい作品は作れません。これは人ですよ、人格で作られるのです」と。

 白州正子は後年、この作品展の印象を「直日さんの作品は、うぶな美しさにあふれており、久しぶりに本物に出合う心地がした」と記し、作品展後わざわざ亀岡まで直日を訪ねている。

(大本百二十年記念事業事務局主幹・田辺謙二)



当コンテンツは京都新聞で連載された
「大本」と芸術 開教120年に寄せて2012年1月26日朝刊分)からの転載です。


“日常にある茶道 「信仰即生活即芸術」目指し
次週5月2日〔水〕に公開します







































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講 師  田辺謙二(大本120年史編纂室長)

たなべ けんじ:昭和29年岡山県生まれtanabekenji.jpg
昭和52年(1977)、大本梅松塾卒塾
大本編集部長、大本梅松塾長、
大本特派宣伝使を経て
現在は大本120年記念事業事務局主幹