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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第26回・いただきます



 玄関に入り大地は靴を脱いだ。

「ゆったりしていていいなあ」

 振り返って玄関を見回し、自宅の玄関とその広さを比べ、「自分の部屋より広いかもしれない」、と大地は今更ながらうらやましく思った。そして、腰をかがめキチンと靴をそろえてから廊下に上がった。その様子を、後から入ってきた松太郎が、目を細めて見ていた。

 奥へ進むと、居間の方からエプロン姿の祖母・ともが出てきた。

「遅かったねえ」

「みろく殿で、おじいちゃんにいろいろと教えてもらってたんだ」

 大地が笑顔で答えた。

「また長々とおしゃべりしてたんだね。つきあってくれてすまないねぇ」

「あっ、いや、勉強になったよ」

「そうかい、それならいいけどね」

 と、ともも笑顔で返した。

「もうすぐお昼だから、ごはんにしようか。何か食べたいものでもあるかい?」

「そうだねえ……。さっき、節分大祭の時のうどんの話をしてたら、何だかうどんが食べたくなったなあ」

「そう。じゃあ、お昼はうどんにしようか。確か、〝ささめうどん〟があったから、ゆがこうかね」

「ささめうどん?」

「普通のうどんより細めの麺だけどね、これがおいしいんだよ」

「へえ〜、楽しみだなあ!」

「まあ、しばらくゆっくりしといて」

 と言いながら、ともは台所に入っていった。




 松太郎と大地は、居間でくつろぎながら、テレビを見ていた。しばらくして、ともが台所から顔を出した。

「おじいさん、薬味のネギをお願いしますよ」

「おっ、そうか。じゃあ、採ってくるか」

 と、立ち上がろうとした時、大地が声をかけた。

「裏の畑でしょ。ぼくが採ってくるよ」

「わかるかい?」

「大丈夫。昨日も畑に行ったし、わかるよ」

「青い細いネギだからな」

 松太郎が念を押した。

「了解です」

 大地は自信ありげに言った。

「裏口のところにハサミがあるから、それで切ったらいいからね」

「えっ、抜いたらダメなの?」

 大地は、驚いたような口調で言った。

「ネギは根元から切ると、またそこから芽が伸びてくるんだよ」

 ともがニコニコしながら言った。

「へえ〜、そうなんだ」

 大地は感心した表情をしながら、裏口へ向かった。




 しばらくして、大地が一握りのネギを持って畑から帰ってきた。

「はい、おばあちゃん、これだね」

 と、ともに向かって差し出した。

「ありがとう。もうすぐできるからね」

「は〜い」

 大地は洗面所に行って泥がついた手を洗って居間にもどり、ソファに腰掛けた。

 台所からは、ネギを細かく切る包丁の音が聞こえてきた。

 ほどなく、ともがお盆にうどんの入ったどんぶりを二つ乗せて台所から出てきた。どんぶりを食卓に置きながら、「さあ、できたよ」と声をかけた。

「どれどれ」

 松太郎と大地は、返事をしてソファから食卓に移った。

「おいしそう」

 大地は、湯気の立つささめうどんを目の前にしてうれしそうに笑った。

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 ともは再び台所に入り、もう一つのどんぶりと箸三膳、薬味のネギ、七味唐辛子などをお盆に乗せて戻ってきて配膳し、食卓に着いた。時計の針は正午前を指していた。

「はい、お待たせ」

「じゃあ、いただこうか」

「おじいちゃん、三首のお歌だね」

「そうだ、覚えてたな。じゃあ」

 と言いながら手を合わせた。

「天の恩土のめぐみに生まれたる……」

 3人は、声をそろえて三首のお歌を拝誦した。

「いただきます」

 二拍手をして箸をとった。大地はどんぶりを持ち、音を立てながらうどんをすすった。

「これ、おいしいね。ささめうどんって初めて食べたけど、いけるなあ」

「おいしいだろう」

 ともがうれしそうに答えた。

 関西風の薄味だが、トッピングした揚げと天かすが風味を引き立てていた。

「なんだか、ネギもいつもと違っておいしいなあ」

「そりゃあ、無農薬栽培で新鮮だからなあ」

 松太郎は、「俺が作ったからなあ」と言わんばかりの笑顔で答えた。

 大地は、あっという間に完食。大盛りのおかわりをした。




「あ〜、おいしかった。ごちそうさま」

「今、お茶を入れるね」

 そう言って、ともが席を立った。

「ん〜、うまかった。ほんまにありがたいこっちゃなあ……」

 大地は、松太郎のかみしめるような言い方に反応した。

「えっ、何が?」

「いやなあ、こうして元気で、おいしい食事をいただけること。ごく普通で当たり前のことが、この歳になってくると、〝ありがたいなあ〟と思えるんだよ」

「ふう〜ん」

「そしてなあ、毎日、畑に出て土をいじっていると、〝ああ、生かされているんだなあ〟と感じるんだよ」

「生かされているぅ?」

「そう、生かされている」

 松太郎はしみじみと言った。

「大地、人間はなあ、自然の一部であって、自然と共生しているんだよ」

「共生って、共に生きているってことだね」

「そう、日頃は忘れてしまいがちだけど、人間は自然の力に大きな影響を受けながら生活を営んでいるし、偉大な恩恵を受けながら生かされているんだ。今は冬だけど、春になって草木が芽吹き、小鳥のさえずりが聞こえてくると、人間の心も春めいてくるだろう」

「そうだね。桜が咲くと、やっぱり花見に行きたくなるもんね」

「そうだろう。梅雨の季節になって雨の日が続くと、気持ちもなんとなくジメジメしてこないかなあ」

「そうそう、わかるわかる」

「そんなふうに、人間の心は、自然の風土や環境、気候の変化にとても影響されるんだ」

「なるほどね」

「それに、自然の力なしには、人間は生きていけないんだ」

 大地は黙ってうなずいた。

「さっきうどんを食べる前に、大地は何て言ったかな?」

「えっ、天の恩土の…」

 松太郎が言葉を遮った。

「いやいや、そのあとだよ」

「えっ、三首のお歌の後は、いただきます、だね」

「それはどういう意味だかわかるか?」

「うどんを作ってくれたおばあちゃんに、ありがとう、っていう意味…かな?」

「もちろん、それもあるなあ。でもそれだけじゃないんだ」

「というと」

 大地は、首をかしげた。




「実は、〝いただきます〟という言葉は、〝命をいただきます〟っていうことなんだよ」

「えっ、命をいただきます、ってヤクザ映画みたいだね」

「いやいやそうじゃなくって、生き物の命をいただくということなんだ。人間が口にする食べ物は、元はすべて命があったものなんだ。さっきの昼食だってそうだよ」

 大地はちょっと不思議そうな表情で聞き返した。

「確かにネギは植物だから命があるってわかるけど、うどんは袋に入った乾麺じゃなかったの?」

「そうだよ。でもその麺の原料はどうかな?」

「うどんの原料は、小麦粉だったかなあ?」

「そうだ、小麦粉と塩と水だな。その小麦粉の元は小麦。ということは植物だから、ネギと同じように命があったわけだ。小麦は、太陽の光と、水と大地の恵みを受けて命を育ててきたと思わないかい?」

「そうか、その命があったからうどんができたんだ。それに、三首のお歌にあったように、火と水と土の恵みがなければ、その命は育たないっていうことだね」

「そういうことだ」

「だから、いただきますという言葉は、食材の〝命〟をいただきますということなんだね」

「そう、だから人間は、自然から命をいただきながら、自分の命をつないでいるんだ」

「なるほど、そういうことなんだね」

「それに、〝いただきます〟という言葉は、外国ではあまりない言葉だそうだ。だから日本人の文化として誇るべき言葉だと、おじいちゃんは思っているんだ」

 松太郎は、誇らしげに言って話を続けた。

「それに……」

(つづく)


※「みろくのよ」誌・平成24年2月号から転載

第27回「神人共食」は
次週5月4日〔金〕に公開します

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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長

イラスト担当:にしじまさとしのプロフィールはこちら

西島 里司(大本メディア愛善宣教課主幹)

にしじま さとし:昭和36年兵庫県生まれnishijima.jpg
平成2年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、編集部長などを経て
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課主幹