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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第27回・神人共食



「なにぃ?」

 大地は興味深げに聞いた。

「食事の後の〝ごちそうさま〟という言葉もいい日本語なんだなあー」

 松太郎が答えた。

「ごちそうさま? も」

「そう。大地は〝ごちそうさま〟って漢字でどう書くか知ってるかな?」

「え〜っと、豪華な食事のゴチソウだよね。確か…、あれ、すぐに出てこないなあ…」

 大地は、「大学生なのに漢字が思い出せないなんてカッコ悪いなあ」と思いながら、頭をひねっていた。その様子を見た松太郎は、「ははぁ、こりゃあ分からないなあ」と察した表情で答えを出した。

「馬へんに也と、走ると書いて馳走(ちそう)。その前と後ろに御と様をつけて、〝御馳走様〟ってなるんだ」

「あっ、そうそう、思い出した」

 大地は照れながら言った。

「馳走というのは、読んで字のごとくで、かけはしること、奔走(ほんそう)することなんだよ」

「ああ、走り回るってこと?」

「そういうこと。食事の材料を調達するためにあっちこっち走り回る。それこそ、水道や電気がない時代だったら、食材だけでなく、水をくみに走るとか、炭を買いに駆け回るとか、とにかく食事を作るために奔走したんだろうなあ。だから、そうやって苦労し、心を込めて作ってくれた人の思い、まごころに対して感謝の気持ちで、馳走に御と様までつけて、〝御馳走様〟って、お礼を言うんだよ」

「なるほどなあ」

 大地は感心した表情で言った。

「〝いただきます〟も〝ごちそうさま〟も、そんな深い意味があったんだね」

「そういうことだなあ。神さま、自然や人と、つまりはすべてに対しての大きな感謝の心が、この言葉を生んだんだろうなあ。外国語の表現にはあまりない言葉だから、今さらながら日本語はすごいもんだと思うよ」

 松太郎はそう言った後、思い出したように「そうだ」と言った。




「箸(はし)の話があるんだが…」

 そういうと、目の前の箸置きに乗った自分の箸を取った。

「この箸は、うどんがつかみやすいように、木地の四角い箸だろう」

 と言いながら、持った箸を大地の前に差し出した。

「そうだね」

「でも、普段わが家では、塗り箸を使っているんだ。塗り箸は食事の度に洗って使うだろう。つまり何度も使うことになるなあ」

「まあ、わが家でもそうだし、普通だよね」

「でもなあ、普段使いの箸はそれでいいんだけど、お客さんを迎えて食事を差し上げる時は、新しい箸を使うのがいいんだよ」

 松太郎の話に、大地が首をかしげた。

「でもおじいちゃん、塗り箸だったら、新しいかどうかわかりにくいんじゃない?」

「さすがは大地、その通り! だから木地の箸を使う方がいいとされているんだ」

「木地の箸?」




「大地は、千利休を知っているかなあ?」

「うん、茶道を大成した人物だよね」

「そう、その千利休は、茶会を催すときには、決まってお膳を出す直前に箸を削っていたんだ」

「へえ〜直前に? そりゃあたいへんだね」

「たぶん、とても手間がかかっただろうなあ。でも利休は、削りたての箸でないと杉の香りがしないからよくない、と言って削っていたそうだ」

「杉の箸なんだね?」

「懐石料理の中でも、茶道のお茶事という催しの中で出す料理を茶懐石というんだけど、その茶懐石で使うお客さま用の箸は、赤杉でできた〝利休箸〟というのを使うんだ」

「利休の名前がついているんだね」

「長さは八寸五分というから、二十六センチくらいで、両端が細く削ってあるんだ。これは日本独特の箸の形で、両方が細いから〝両細〟というんだ」

「両端とも同じ形なら、どっちを使ってもいいんだね」

「そうだなあ。まあ、百聞は一見に如(し)かずで、実際に見る方がいいなあ」

 と言いながら、松太郎は台所で洗い物をしているともを呼び、利休箸を持って来るように頼んだ。




 しばらくして、ともが利休箸を持って台所から出て来て、「はい、これだよ」と、大地に渡した。


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「なるほど、これが利休箸か。初めて見たなあ」

 大地はそう言って、箸を自分の鼻に近づけた。


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「ほんとだ、ほんのり木の香りがするなあ」

「まあ、それは少し古いから香りも薄くなっているだろうけど、削りたてだったら、もっといい香りがするはずだ」

「そうだろうね。でも、なんで両方を同じ形にしたんだろう?」

「それも理由があるんだ。実は、一方は神さま、もう片方は人間が使う、ということなんだ」

「へえ〜、そんな意味があったんだ」

「これを昔から〝神人共食(しんじんきょうしょく)〟と言っているんだ」

「神人共食?」

「お茶の世界だけでなくって、日本では古来お正月のおせち料理をいただくときも、両細の箸を使ったもんなんだ。日本には、正月三が日には歳神(としがみ)さまをお迎えするという風習があって、食事をお供えし、一方を神さまが使われ、もう一方は人が使って食べる。つまりは、お正月のおせち料理をいただくというのは、神さまと人といっしょに食事をいただき、神さまのご守護をいただいて生命を更新させる神事でもあったんだ。だから正月三が日使う両細の箸を、〝祝い箸〟や〝両口箸〟、〝柳箸〟ともいうんだ」

「柳箸?」

「柳を材料にして作った両細の箸なんだが、柳は香りが良くて水分が多く、折れにくくて、春一番に芽を出す強い生命力があるんで、縁起がいいとされているんだ」

「なるほど、深〜い話だねえ」




「神人共食というのは、大本で言えば、神さまの祭典のあとに、お供えしたお下がりをいただく〝直会(なおらい)〟にもつながるだろうなあ」

 大地は「あれ?」というような表情で松太郎に聞いた。

「おじいちゃん、直会って、おまつりの後に食事をいただくことだよね。でも、おとといの節分大祭でも直会ってあったっけ?」

「節分大祭は、夜からの祭典で直会はないんだけど、ほかの大祭や毎月の月次祭などでは、必ず直会があるんだ。直会というのは、緊張感のある祭典で神さまにお仕えして、それが終わって元に戻るということ。〝直り会う〟というところから直会といふうになったと言われているんだ。その直会を通して、参拝者は神さまからのみ恵みを分かち合うということなるんだ」

「なるほどなあ、箸にしろ、直会にしろ、それに、〝いただきます〟や〝ごちそうさま〟のあいさつにしろ、突き詰めていくと、神さまとともにある、ということなんだね」

 大地は、手にした利休箸を見ながらそう言った。

「そうだなあ。調伏行事(ちょうふくぎょうじ)は別として、本来、日本の良き伝統には、すべてが神さまと共にあるという精神が流れていて、その感謝の心が、言葉や風習に受け継がれているんだろうなあ」

「大切にしないといけないね」

 大地は自然と笑顔になっていた。

(つづく)


※「みろくのよ」誌・平成24年3月号から転載

第28回「向上への道」は
次週5月11日〔金〕に公開します

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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長

イラスト担当:にしじまさとしのプロフィールはこちら

西島 里司(大本メディア愛善宣教課主幹)

にしじま さとし:昭和36年兵庫県生まれnishijima.jpg
平成2年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、編集部長などを経て
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課主幹