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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第28回・向上への道



 神さまの話となると、松太郎は夢中になってしまう。ましてや相手が久しぶりに訪ねてきた孫であればなおさらだ。だが、あまりしつこく話すと、若い者には煙たがられることも知ってはいた。幸いなことに、大地は大学4回生とあって、松太郎の話に興味を持ってくれた。松太郎にとってはうれしいことであった。

 一方の大地は、「節分大祭」明けの2日間、松太郎とずっといっしょにいるような気がした。いや、気がしたのではなく、事実そうだった。昨日は終日、神さまの話や大本出現の意義について教えてもらった。今朝も午前中は、みろく殿でほとんどの時間を過ごした。松太郎の家にもどってからは、お昼のうどんを食べて、〝自然と人間との共生〟や〝神人共食〟の話など、次から次に飛び出す松太郎の博学ぶりに、感心させられていた。

 でも、正直少し疲れてきた。

「ここで質問すると、また話が広がってしまうかも」

 そう思った大地は、もう一度「ごちそうさま」と手を合わせ、「トイレへ行く」と言って、席を立った。

「大地、おじいちゃんにつきあってばかりだとたいへんだから、ちょっと部屋でゆっくりしたらどう」

 と、ともが言ってくれた。

 松太郎は、「何を言うか」というような表情でともの方を見た。

「うん、そうするよ」

 大地はそう言いながら、リビングを出た。




 用を足してから、大地は荷物を置いた部屋へ入った。

 室内はヒンヤリしている。ファンヒーターのスイッチを入れ、畳の上に腰を下ろした。たたんでいた布団にもたれかかり、両手両足を思い切り伸ばして深呼吸をした。

 ポケットから携帯電話を取り出し、メールをチェックした。メールの着信があったのはわかっていたが、松太郎から話を聞いている間は、チェックすることを遠慮していた。開くと数件のメールが入っていた。ほとんどが登録サイトからのものだったが、その中に母・京子からのメールがあった。

「綾部は寒いですか? おじいちゃんとおばあちゃんは元気ですか? ゆっくりしてきてね」

 そういえば綾部に到着してから、一度〝着きましたメール〟をしただけで、あとは何も送っていなかった。

 大地はすぐに返信メールを打ち始めた。

「けっこう寒いです。信州より寒いかも。おじいちゃんもおばあちゃんも元気です。おじいちゃんからいろんな話をじっくり聞かせてもらってます」

 と、ここまで打ってから、「ゆっくりしてきてね」のメッセージが気になった。

 もともと綾部に来たのは、もうすぐ卒業というのに、就職活動がうまくいっていなかったからだ。あせりもあって気持ちがめいっていたところに、京子のすすめがあって、気分転換のつもりでやってきたのだった。

 それが初めての節分大祭参拝や松太郎から聞いた数々の〝話〟のおかげで、気がつくと気持ちが少し楽になっていた。

 大地はしばらく考えてから、「ゆっくりできたので、明日の午後、帰ろうかな?」と付け加え、送信ボタンを押した。

 携帯をポケットにしまうと、急に眠気が襲ってきた。




 メールの着信音で気がつくと、どうやら20分ほど眠っていたようだった。メールは京子からの返信だった。

「そう、了解です」

 意外とあっさりしていた。




 夕食の時間、明日帰ることを告げると、祖父母は残念がっていたが、大地の就活のことを考えると無理に引き止めるわけにもいかなかった。

 大地は、祖父母との温かい語らいの時間がことさらいとおしく思えた。

「自分のことを思ってくれ、遠くから見守ってくれる祖父母がいる」

 そう思うと、心が救われるような気持ちになっていた。




 翌日の昼前、松太郎が駅まで軽トラで送ってくれることになった。お土産で増えた荷物を荷台に乗せた。軽トラに3人は乗れないので、ともは家の前で見送ってくれた。たった4日間だったのに、別れが悲しかった。思わず目頭が熱くなった。

「お母さんや、みんなによろしくね。またおいでよ」

「うん、また来るからね」

 ともの言葉にそう答えながら、軽トラの窓から手を振った。

 ともの姿が見えなくなってから、窓を閉めた。

「おじいちゃん、お世話になりました」

 大地は松太郎に、あらためて礼を言った。

「あっという間だったなあ」

「そうだね」

「あっ、そうそう」

 と、松太郎は思い出したように言って、1冊の文庫本を大地に渡した。

「お母さんも持っていたはずだから、大地も読んだことがあるかもしれないがなあ」

 見ると表紙に『生きがいの探求』とあった。

「尊師さま、日出麿先生の本だ」

「見たことはあるかも? でも、しっかり読んだことはないなあ」

「そうか。じゃあ、一度じっくり読んでごらん。きっと役に立つはずだ」

「ありがとう。読んでみるよ」

「その本は、三代教主補の尊師さまが、学生時代の大本入信から結婚されるまでの10年間ほど、大学ノートに書きつづられていた随想をまとめたものなんだ。ちょうど今の大地くらいの年のころだなあ。最初は、大本の機関誌に連載されていたんだけど、それを『信仰覚書』というタイトルで、今から45年ほど前に全8巻で出版されたんだ。
 そのあと、その中から一般にもわかりやすい文章を選んでまとめられて講談社から出版されたのが、『生きがいシリーズ3部作』で、その最初がこの『生きがいの探求』なんだ。当初は単行本だったんだけど、その後、手軽に持てるようにということで天声社から、文庫版で出版されたんだよ」

 松太郎は、時折、大地が手にした『生きがいの探求』に目をやりながら説明した。

「そうなんだ」

 大地はページをめくりながら言った。

「おじいちゃんも、好きなお示しがたくさんあるんだよ」

「たとえば?」

「そうだなあ、確か〝向上への道〟というタイトルがあったろう」

「向上への道?」

 そう言いながら、大地は目次ページを見た。

「あっ、あった。50ページだね。向上への道、人生とは、って中見出しがついているよ」

「ちょっと読んでごらん」

「わかった」

 大地は声に出して読み始めた。


 どんなにつらい環境にあっても、これを切りぬけようと努力をつづけるところに人生はある。

 いたずらに他をうらみ、世を呪ってはならない。

 何かに向かって働くのが人生だ。

 貧窮ひんきゅう)になってみて、はじめて、貧乏のどれほど辛つら)いものであるかがわかる。病気になってみてはじめて、病人の気持ちが了解できる。死んでみて、はじめて、死というものが理解できる。

 宇宙は大学であり、真理はどぶの中にもころがっている。

 たえず何かを求めて、あがき苦しみ、もがき呻うめ)いて、そして、ついに何かを悟ることができたら、人生は成功だ。

 悟っただけの世界へ、死後は、はこばれるのだ。

 ある与えられた道筋より外へは出られないのである。しかし、その道筋というのは、けっして、最初から一定不変の絶対的はものではなく、その方向は絶対的であっても、その長短や道幅は、人間の努力ひとつで、どんなにでもなるものである


 そこまで読んで、大地はうなずきながら、もう一度活字を目で追った。

「ん〜、今の自分にピッタリくる文章だね」

 感心したように言った。

「そうだな。今の大地は就職が決まらなくてたいへんな時期かもしれないけど、とにかく前を向いて、神さまにお願いしながら、しっかり進んで行ってほしいなあ」

 松太郎はしみじみとした口調で言った。

「うん、おじいちゃん、がんばるよ」

「そう、その調子だ。また何か困ったことがあったら、遊びにおいで」

「ありがとう、また来るよ」

 大地は、心強い気持ちになっていた。

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 綾部駅に着くと、松太郎は軽トラを駐車スペースに止めた。大地は、『生きがいの探求』をバッグにしまい、車を降りて荷台の荷物を持った。

 松太郎は2階の改札口まで大地を見送った。

「いい就職先が見つかるといいな」

「うん、がんばるよ。おじいちゃん、いろいろとありがとう。元気でね」

「ああ、大地もな。気をつけて」

「じゃあ」

 大地は、あとを振り返りながら、ホームへ降りていった。

(つづく)


※「みろくのよ」誌・平成24年4月号から転載

第29回「感謝と希望と安心」は
6月1日〔金〕に公開します

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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長

イラスト担当:にしじまさとしのプロフィールはこちら

西島 里司(大本メディア愛善宣教課主幹)

にしじま さとし:昭和36年兵庫県生まれnishijima.jpg
平成2年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、編集部長などを経て
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課主幹