十曜の紋WEB用2.psd宗教法人大本headnametype.png

I トップページ I グローバル I お問合せ I
印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |


HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第29回・感謝と希望と安心



 別に急ぐ旅でもないからと普通列車に乗ろうと思ったが、昼前後の時間帯だと、山陰線の上り普通列車は1時間に1本しかなく、しかも途中の園部で乗り換えなくてはならない。仕方なく大地は京都行き特急「きのさき」に乗り込んだ。土曜日とあって乗客は多かったものの、何とか自由席の通路側に座ることができた。乗車券は往復で買っていたので、巡回して来た車掌から特急券を買った。電車は丹波の山中を京都へ向かって走る。途中山裾の所々に、雪が残っていた。

 朝、「いらない」と言ったのだが、ともが弁当を作って持たせてくれた。時分時になり腹も減ってきたので、ともの弁当を開いた。小ぶりのおにぎりとおかずが数品きれいに並べられていた。口の中で、祖母の愛情が広がるような感じがした。

「ありがたいなあ」

 大地は素直にそう思った。




 電車が亀岡に近づくと車窓からの景色も町並みが多くなってきた。しばらくして亀岡駅に停車した。駅の正面、南郷の壕(ほり)の向こうにたたずむ杜が、大本の二大聖地の一つ〝天恩郷〟である。

「亀岡には降りたことがあったなあ」

 いつだったか大地は、母・京子に連れられて天恩郷に参拝に来たことがあった。ただ、駅舎がずいぶんと変わっているのには驚いた。

 大地は再び、亀岡の地を訪れることになるのだが、この時は知る由(よし)もなかった。




 綾部を出て1時間10分で京都駅に着いた。大地は、みどりの窓口に向かい、長野行きの特急券を買った。京都から名古屋まで新幹線で乗り継ぎ、名古屋から長野行きの特急「しなの」に乗るためだ。日中、「しなの」は1時間に1本あり、午後3時発の指定をとった。それから乗車までの待ち時間、駅構内の売店で実家への土産物を買うことにした。

「お土産はいらないよ」

 京子には言われたが、そうはいかない。買っていかないと、妹のちあきと弟の司に責められるのは目に見えていた。兄として手ぶらでは帰れない。2人の顔を思い浮かべながら、京土産を選んだ。

 京都から名古屋までは、新幹線で30分余。速いものである。名古屋駅に着くと、在来線への乗り換え口から中央本線のホームへ向かった。3時の出発までにはまだ時間があった。ベンチに腰を下ろすと、良い匂いがしてきた。見るとホームに立ち食いそば屋がある。名古屋だけに、もちろん〝きしめん〟もある。山陰線の車中でともが作ってくれた弁当を食べたものの、小腹がすいてきた。

「やっぱ、名古屋に来たらきしめんでしょう」

 そう自分で納得し、店の入り口で食券を買い、のれんをくぐった。せっかくだからと名古屋コーチン入りのきしめんを奮発した。店の中には、先客が3人いた。

「いらっしゃいませ」

 女性店員が声をかけ、すぐにお冷やを出してきた。大地は、

「お願いします」

 と食券を差し出した。

「少しお待ちください」

 この手の店はお客の回転も速い。ほどなく目の前にきしめんが出てきた。大地は箸立てから割り箸を取り、手に持った。その時ふと松太郎の顔が浮かんだ。そして、〝神人共食〟の話や、松太郎から聞いた〝いただきます〟や〝ごちそうさま〟の意味、二代教主さまの〝三首のお歌〟のことを思い出した。松太郎の家では、何の抵抗もなく言えた三首のお歌だったが、ここで声に出して言うのはさすがに恥ずかしく抵抗があった。

「おじいちゃんなら、たぶんここでも三首のお歌を奏(あ)げるんだろうな。でもまあ、僕はまだ完全におぼえてないからなあ…」

 と自分に言い訳をしながら、それでも手を合わせて小さく二拍手し、「いただきます」と言って食べ始めた。体が冷えていたせいもあり、温かくておいしかった。

 汁も飲み干し完食。終わって手を合わせて〝ごちそうさま〟と言った。それを聞いた店員が、「ありがとうございました」と言葉を返した。

 今までは飲食店で食事をし終わっても、無言で立ち去ることが常だった。それが自分から〝ごちそうさま〟と言っているではないか。大地にとっては、ちょっとした進歩であった。店員が返した「ありがとうございました」の一言も、儀礼的というのはわかっていても、どことなく気持ちよく受け取れた。大地は、言葉に気持ちを乗せることの大切さを感じていた。松太郎のおかげだ、と思った。




 店を出ると同時に、特急「しなの」がホームに入ってきた。車内の清掃終了のアナウンスが流れてから、列車に乗り込んだ。進行方向左の窓側の席だった。

 午後3時、列車はゆっくりと発車した。終点の長野まで約3時間。到着は夕方6時前の予定だ。この中央本線は岐阜県東部や長野県の山間部を通過するためカーブが多い。そこを走る特急「しなの」は、〝振り子式車両〟が用いられている。カーブでできるだけスピードを落とさないようにするため、車体重心を下げ、スプリングも柔軟に作られている。そのためカーブでは、従来の車両より車体の傾斜が深く振り子のようになるのが特徴なのだ。乗っていると大きくゆっくり揺られているような感触がする。

 大地は、「しなの」に乗ってしばらくしてから、携帯でメールを打った。


shanai.jpg



「今、名古屋駅を出ました。7時前には帰ります」

 京子へ送信した。ほどなく着信バイブが作動した。

「了解です。夕食は?」

 簡単な返信が返ってきた。

「家で食べます」

 もちろんだよ、と思いながら送信した。

「了解。気をつけて」

 相変わらずあっさりしたメールだった。

 大地はメールを返した後で、iPodを取り出し、音楽を聞き始めた。井上陽水の「傘がない」。就職が決まらない今、妙にはまっている曲だった。列車は雪深い木曽の山中を走り抜ける。

 1時間ほどして、車内アナウンスで、「寝覚めの床」の案内があった。大地は車窓の外に目をやった。

「寝覚めの床」は、巨大な花こう岩が木曽川の激流に刻まれてできた自然の彫刻といわれる。中山道・木曽道に「木曽八景」として数えられる景勝地の中で、一番の迫力があるとして有名なところである。その壮大さから列車の窓からも一望できる。ただ、季節は2月、その〝自然の芸術〟は、雪に覆われている。しかし、それはそれなりに美しい景色として大地の目に飛び込んできた。

「綾部に行く時は、ボーッと見てたのかなあ? 今はとってもきれいに見えるなあ」

 そう思いながら、流れゆく風景に目を向けていた。

 木曽福島を過ぎてトンネルに入ったところでイヤホンをはずし、思い出したようにカバンから「生きがいの探求」を取り出した。裏表紙を見ると、短い詩が書いてあった。


 天地は毎日かわる

 晴れくもり寒くあたたかく

 日が出たり月がでたり

 闇になったり朝がきたり

 ゆきづまったままの状態が

 永久につづくかのように思いなさるな

(本文から抜粋)


「ん〜、なるほど」

 そう思いながら、「本文のどこにあるのだろう」と思いながら、ページをめくっていった。パラパラとめくりながらさがすつもりだったが、何度も手が止まった。50ページの「向上への道」では、松太郎が「好きなお示しだ」と言ったことを思い出して、また読み返してみた。

「やっぱりいいなあ」

 そう思いつつ、もう一度裏表紙の詩を確かめ、本文をさがしたが、なかなか出てこない。本の最後の方で短いお示しに目が止まった。


 真に神を信じる者は、

 真に神を相手としてのみ行動している。

 ゆえに、どんな場合にでも

 感謝があり、希望があり、安心がある。


 大地は、「感謝と希望と安心がある…か。おじいちゃんがそうなんだろうなあ」と松太郎の言動に思いをはせた。と同時に、今の自分にはとうてい難しいことだ、とも思った。

 さらにページをめくっていき、ようやく「おわりに」のページにさがしていた詩があった。

「何だ、最後に書いてあったのか」

 と思いながら、その詩の最初から読んでみた。


 淋(さび)しいでしょう 辛いでしょう

 しかし辛棒(しんぼう)してください

 もう少しです

 明けぬ闇はなく

 尽きぬ冬はありません

 歯を食いしばってでも

 土にかじりついてでも

 どうなりこうなりこの峠を越えてください

 〝ああだめだ〟などとはけっして言わぬことです

 東でゆきづまったら西へまわりなさい

 南がふさがったら北へお逃げなさい

 東西南北みなだめでしたら

 しばらくそこで臥(ね)ていてください

 天地は毎日かわる……


 読み終えて、大地は大きく息を吸い、ゆっくりはいた。

(つづく)


※「みろくのよ」誌・平成24年5月号から転載

第30回「よりよき道を求めて」は
7月1日〔日〕に公開します

next.pngnext.png

nextnext.pngnextnext.png

この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長

イラスト担当:にしじまさとしのプロフィールはこちら

西島 里司(大本メディア愛善宣教課主幹)

にしじま さとし:昭和36年兵庫県生まれnishijima.jpg
平成2年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、編集部長などを経て
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課主幹