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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第31回・み手代



しばらくして、京子が手提げ袋を持ってきた。

「大地、これをお願いね」

 と差し出した。大地は、

「わかった。で、これ何?」

「このあいだ、町村さんからリンゴをたくさんいただいたのよ。そのお礼で、ちょっとしたお菓子なんだけどね」

「わかった。じゃあ、車を借りるね」

「はい、お願いね」

 大地はすぐに着替えを済ませて、玄関に向かった。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい、気をつけてね!」

 京子の声を背に、大地はガレージの車に乗り込み、預かった荷物を助手席に置いて家を出た。アップルラインと呼ばれている国道18号線を小布施に向かい、北へと走った。

 長野市内から小布施まで、長野電鉄を利用することもできるが、それぞれの駅までの距離を考えると車が便利である。

 長野電鉄は、長野駅から奥信濃の湯田中温泉を結ぶローカル線で、北信五岳を望みながら走る風情ある路線である。電車は、途中リンゴ畑の中をすり抜けるように通るポイントもあり、秋から冬にかけ、リンゴがなっているところを初めて見る観光客には人気がある。 

 大地は15分ほど車を走らせ、千曲川を渡り、小布施の町に入った。〝栗と北斎の町〟として、テレビや雑誌で紹介され、全国的にその名が知られるようになった小布施は、20年ほど前から〝町並み修景〟を手がけてきた。観光客も年々増加し、平日でも散策する観光客でにぎわい、土日・祝日ともなると、町は人であふれかえっている。しかも、「癒された」、「また別の季節に来たい」などと、リピーターが多いのが、小布施の特徴でもある。




「今日も人が多いなあ」

 そう思いながら栗菓子で有名な小布施堂前を左折した。北斎館などがある修景地区から東に入ったところに、町村家がある。ここには子供のころから何度も来たことがあった。大地は家の前庭に車を入れ、京子から預かった手提げ袋を持って降り、玄関の呼び鈴を押した。

「はーい」

 中から女性の声がして、玄関の戸が開いた。

「こんにちは、雨宮です」

「あらぁ、大地君。ひさしぶりね」

 町村家の主婦・恵子で、母・京子とは大本を通じての友人であった。

「お久しぶりです」

「いらっしゃい。今日はどうしたの?」

「あの〜、母からの届け物がありまして」

 と言いながら、大地は手提げ袋ごと差し出した。

「あら、何かしら」

「先日頂いたリンゴのお礼にということで…」

「そんな気を使わなくていいのにねえ、京子さんは律義なんだからぁ」

「あ、いや、ほんのお口汚しですので…」

「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なくいただきます。さあ、上がって。時間あるんでしょ」

「あ、まあ」

 恵子にうながされるまま中に入った。

 大地はリビングのソファに腰を下ろしてから、周囲を見回した。掃除が行き届き、きれいに片付けられていた。ほどなく、恵子がお茶と野沢菜漬けを運んできた。

 ふと気がつくと、ご神前がある居間の方から、祝詞の声が聞こえていた。

「おばあちゃんがお参りされているんですか?」

「そうなの」

 おばあちゃんとは、恵子の義母・音江のことである。

「いつもこの時間には、知り合いの人たちのご祈願をしているのよ」

「ご祈願?」

「病気の知り合いだったり、入院しているおばあちゃんのお友達が早く良くなりますようにって、神さまにお願いしているのよ」

「そうなんですか」

 大地は、祝詞の声がする方を向きながらうなずいた。

「さあ、お茶をどうぞ」

「いただきます」

 大地は、お茶をすすってから、野沢菜漬けをつまんだ。

「うまい!」

 屋外に置いた漬け物樽から上げた冬の野沢菜漬けは、少し凍っていて歯ごたえがあり、絶品である。




 しばらくして音江がリビングに入ってきた。

「おばあちゃん、こんにちは」

「おや、雨宮さんとこの大地君。いらっしゃい」

「おじゃましてます」

「よく来なすったねえ」

 そう言いながら、音江は大地の向かいに腰を掛けた。

「今日はどうしたの?」

「母の使いで来ました」

「リンゴのお礼にって、お菓子をいただいたのよ」

 恵子が言葉をはさみながら、音江の湯呑みと急須、切り分けたリンゴを持ってきた。

「かえって気をつかわせちゃったわねえ」

「いいえ、三田農園のリンゴはホントにおいしいんで、うちでも大人気です」

「お隣の三田さんは、こだわりの農家で、せかしても、おいしくなるまでは売ってくれないからね」

「へえ〜、すごいですね」

 大地は感心したように言った。

「そういえば、京子さんに聞いたんだけど、大地君、節分大祭にお参りしたんだって?」

 恵子が思い出したようにたずねた。

「はい、母にすすめられて綾部まで行ってきました」

「どうだった?」

 恵子はそう聞きながら、急須のお茶を大地の湯呑みにつぎ足した。

「いや〜、初めてお参りしたんですけど、厳かで、すがすがしかったですよ」

「そりゃあよかった。松太郎さんたちも喜んだろうね」

 音江が言った。

「はい、おじいちゃんともゆっくり話ができて、大本のことをいろいろ教えてもらいました」

「松太郎さんも、熱心だからねえ」

「そうですね」

 大地は笑いながら答えた。




 大地の祖父・松太郎と音江は同じくらいの歳のようで、以前から聖地で時々顔を合わせていたとのことだった。

「ところでおばあちゃん、今、神さまにご祈願をされていたそうですね」

 大地は音江にたずねた。

「病気の知人に、おかげをいただいてほしくって、ご祈願をしたり、遠隔お取次ぎをさせてもらっているのよ」

「遠隔お取次ぎ?」

「離れたところにいる人に対して、み手代お取次ぎをさせていただくのよ。大地君もお取次ぎを受けたことあったよね。こうしてみ手代を持って、神言を奏上して…」

 音江は、右手を軽くにぎって前に出してお取次ぎの格好をしながら言った。大地は少し考えて、思い出したように答えた。


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「あっ、そういえば、子供のころ、おばあちゃんにしていただいた記憶があります。なんだか気持ちがよかったことだけは、うっすらとおぼえているんですが…」

「小さいとき、大地君は喘息だったよね。今は大丈夫なの?」

「はい、もう治りました。その節はお世話になりました」

「確か、おかあさんといっしょにうちに来ている時に、具合が悪くなって、その時にお取次ぎをさせてもらったんだね」

「そうですね。小学校の3、4年生のころだったと思います」

「そうそう」

 音江は、なつかしそうに言った。

「おばあちゃん、あのころはまったくわからなかったんですが、み手代お取次ぎって、そもそもどんなものなんですか?」

 大地は興味深げに聞いた。

 音江は、「それならば」と、ご神前にもどり、み手代を手にリビングに戻ってきた。




「これが、み手代でね、〝救いの神器〟なの。これを救いの神さまである〝瑞の御霊さま〟の御手の代わりとして使わせていただくので、手の代わりと書いて、み手代というの。もともと〝手代〟というのは、代わって仕事をすることや、代理という意味があるのよ」

「なるほど、神さまの代理ですか」

「それで、こうなっているのよ」

 と、錦の袋からみ手代を取り出した。

「えっ、それって杓文字みたいですね」

 大地は驚いたような口調で言った。

「そう見えるでしょう。でもね…」

 音江はそう言いながら、み手代の正面を大地に向けた。

「渦巻きのようなものが書いてありますね」

「そう、渦は水。水は瑞の御霊、救いの神さまを表しているの。これは三代教主さまがご染筆になったものだけど、歴代の教主さまが、神さまにご祈願し神霊を込められながらお書きになったものなのよ。時代によってお歌であったり、御神名であったり、それから裏にもご染筆があったりするんだけど、どれも救いの神器にはかわりないの」

「そうなんですか。でもなぜそんな形をしているんですか?」

「それはね…」

 音江は目を輝かせながら話を続けた。

(つづく)


※「みろくのよ」誌・平成24年7月号から転載

第32回「み手代お取次ぎ」は
9月1日〔土〕に公開します

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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長

イラスト担当:にしじまさとしのプロフィールはこちら

西島 里司(大本メディア愛善宣教課主幹)

にしじま さとし:昭和36年兵庫県生まれnishijima.jpg
平成2年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、編集部長などを経て
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課主幹