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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第35回・一霊四魂



 音江は大地の様子を笑顔で見ながら話を続けた。

「だからこそ、その〝おほもとのりと〟の後半に書いてあるような、より具体的なことを自覚するように努力します、ってことなのよ」

「じゃあこのあとが、具体的な事を祈願することになるんですか?」

 大地が聞いた。

「そうなのよ。それじゃあ、少しずつ説明しようかね」

「はい、お願いします」

 という大地の返事を聞きながら、音江は気がついたように聞き返した。

「ところで大地君、時間はいいの?」

「はい、大丈夫です」

 大地は、リビングの置き時計に目をやりながら答えた。




「大地君、ゆっくりしていってよ」

 そう言いながら、恵子がポットと菓子器を持ってリビングに入ってきた。

「はい、ありがとうございます」

「おばあちゃんも、若い人と久しぶりに神さまの話をしっかりできて、いいですね」

「へえ、うれしいね」

 2人はニコニコしながら話した。

 恵子は急須にお湯を足すと、大地と音江の湯呑(の)みにお茶を注ぎ、菓子器に盛ったお菓子をすすめた。

「はいこれどうぞ。大地君、〝一茶(いっさ)まんじゅう〟は知ってるよね?」

「はい、俳人の小林一茶ゆかりのおまんじゅうですよね」

「小さくて一口で食べられるのがいいでしょ」

「そうですね」

「じゃあ、たくさん召し上がって」

「では、いただきます」

 と、大地は一茶まんじゅうを一つつまみ、口に入れた。

「ん〜、おいしい!」

「でしょ」

 恵子はうれしそうな顔をしながら、台所に戻って行った。




 大地はお茶を飲み、湯呑みをテーブルに置いて、口元を指で拭く仕草をしながら音江の方を見た。

「おばあちゃん、一茶まんじゅうで思い出したんですけど、確か、小林一茶の〝やせ蛙(がえる)まけるな一茶これにあり〟の句は、小布施(おぶせ)で詠んだものでしたよね」

「岩松院(がんしょういん)でね」

「あ、そうそう岩松院でしたね」

「あそこの庭の〝蛙合戦の池〟で詠んだのよ」

「そうだ、思い出した! 本堂の天井に葛飾北斎(かつしかほくさい)が描いた大きな鳳凰(ほうおう)の絵があるお寺でしたね」

「そう、あれは北斎が晩年、89歳の時に描いた大作よ。たたみ21畳の大きさがある鳳凰で、160年以上も前に描かれているのに、今でも鮮やかな色彩で、とても立派なものね」

「僕も中学生の時に行ったことがあります。みんなで本堂に寝転がって天井を見上げました。あれはすごい鳳凰ですよね」

「ほんと見事だねえ」

 相づちを打っていた大地は、何かに気づいたような口調で言った。

「あれ、話が変わっちゃいましたね」

「おや、そうだね」

「〝祈願〟の具体的な意味を教えていただかないと…」

「それじゃあ、話をもどそうかね」

「はい、お願いします」




 音江はゆっくりとしゃべり出した。

「感謝祈願詞(みやびのことば)の〝祈願〟の部分では、『伊都能売魂(いづのめのみたま)と成さしめたまへ』って、大きなお願いをしてから、具体的なことにはいるんだけど、その中でも最初はそのお願いの前提になることを申し上げるのよ」

「前提?」

「『邂逅(わくらは)に過(あやま)ちて枉津神(まがつかみ)のために汚(けが)し破(やぶ)らるることなく』というところがその前提なのよ」

「ここですね」

 大地は、〝おほもとのりと〟の文面を指差しながら言った。

「この〝邂逅〟ってどういう意味ですか?」

「邂逅というのは普通〝かいこう〟と読むんだけど、めぐりあうことや、おもいがけなく出会うことなの。よく考えてみると、人生はいろいろな人や状況との出会いや巡り合いによって、その人の道を歩むことになるものなのよね」

「そうかもしれませんね」

「友人や師匠、男女の出会い、それからいろんなチャンスとの巡り合い、芸術や宗教との巡り合いもあるかな」

「なるほど」

「でも、どんな人や機会に出会うかは、私たち人間には予想できないものよね。だから幸せになるのも、不幸に見舞われるのも、ある意味この〝邂逅〟次第かもしれないでしょ」

「そうですね。車を運転していて、〝もしあと3秒早く交差点に入っていたら、たいへんな目にあっていたかも〟、とかいうことがありますよね」

「歴史に〝もし〟ということはないというけど、ほんのちょっとの時間差がその後の人生を大きく左右するということはあるものなのよね。私のように長く生きているとそんな経験は何度かしているのよ」

「そうですか?」

「でもね、邂逅がすべて良い方に動いたらいいんだけど、そのことをきっかけに物事が悪い方へ悪い方へ進んでいくこともあるのよ。そういうことを『邂逅に過ちて』というの。で、そうしたことは枉津神…、別の言葉で言うと、魔神(まがみ)や悪神(あくがみ)の仕業の場合があって、それによって人が不幸に陥(おとしい)れられてしまうことがある、といわれているのよ」

「悪い神によって、ということですか?」

「そうね。讃美歌の中にも、『世人(よびと)の知慧(ちえ)は賢(さか)しくも この世をのろふ魔神(まがかみ)の 醜(しこ)のたくみは悟り得じ』(「大本讃美歌」第3)という一節があるんだけど、世の中をのろう悪神によって、人生の落とし穴はいたるところにかくされていて、智恵のある人でもさとることが難しい場合がたくさんあるということなのよ」

「恐いですね」

「だから大前提として、〝まずそんな悪い巡り合いに遭遇しませんようにお守りください〟ってお願いするわけね」

「なるほど、最初から落とし穴に落ちたんじゃあ、元も子もないですからね」

 大地は納得したような表情でうなずいた。




「その上で、次の『四魂(たま)と五情(こころ)の全(まった)き活動(はたらき)によりて、大御神(おほみかみ)の天業(みわざ)に仕へまつるべく』となるのよ」

「この四魂(たま)というのは、一霊四魂(いちれいしこん)の四魂(しこん)ですか?」

 大地は、のりとの文字を追いながら言った。

「そうね」

「じゃあ、五情(ごじょう)というのは?」

「それは、一霊四魂の働きのことなのよ」

「働き?」

「四魂のそれぞれの名前は、荒魂(あらみたま)、和魂(にぎみたま)、幸魂(さちみたま)、奇魂(くしみたま)というんだけど…。ほら、その〝のりと〟の次のページをめくったところにあるでしょ」

 という音江の言葉で、大地は〝おほもとのりと〟をめくり、文字を目で追った。

「あ、ありました。『荒魂の勇(いさ)みを振起(ふりおこ)し…』、それから『和魂の親(したし)みによりて…』。えーと次が『幸魂の愛(めぐみ)深く…』、それから、『奇魂の智(ひかり)によりて…』。この四つですね」

「そうそう。今、大地君が読んだところの四魂のそれぞれの下の言葉が、四魂が司(つかさど)る働きなのね」

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「というと、この、勇み、親しみ、それから愛と智ということですか?」

 大地は一つ一つの文字を確かめるようにゆっくりと言った。

「そう、四魂が司るのが、その〝勇・親・愛・智〟というものね。そして、五情というのは、〝のりと〟にも書かれているけど、それぞれの魂の働きである、〝恥じる心〟、〝悔いる心〟、〝畏(おそ)れる心〟、〝覚(さと)る心〟なのよ」

「恥じる、悔いる、畏れる、覚る…ですか? あれ、五情だったら一つ足りないですよね」

「そうね。実はもう一つは、四魂の本体である直霊魂(なおひのみたま)の〝省(かえり)みる〟という最も大切な働きなの」

「なるほど、それで5つになるわけですね。つまり、これで一霊四魂の働きということですね」

「そういうこと。省みる、恥じる、悔いる、畏れる、覚る。これを五情というの。ちょっと難しくいうと、〝五情の戒律(かいりつ)〟ともいうのよ」

「おばあちゃん、あまり難しくない方でお願いします」

 大地は苦笑いしながら言った。




「あら、ごめんなさい。じゃあ、その先ね。四魂と五情の完全な働きによって、『大御神(おほみかみ)の天業(みわざ)に仕へまつるべく』、つまり、神さまがなさるお仕事…大本ではこれをご神業(しんぎょう)というんだけど…このご神業にお仕えすべく、っていうのが、ここの意味になるのよ」

「はあ?」

「そして、ご神業にお仕えするために、その次の部分が続くわけね」

「ちょっと待ってください。ということは、ちゃんとその…ご神業にお仕えできるようにしてください、ってことが神さまへの祈願だということですか?」

「あら大地君、察しがいいねえ」

「ん〜、何だかまた、むずかしいお願いですね」

 大地は首をひねりながら言った。




「まあ、今、あまりむずかしく考えないで、全体の意味を理解してから、ゆっくり考えた方がいいんじゃないかな」

「そうですね」

「じゃあ、次ね」

「はい」

「『忍耐勉強(よくたへしのび)もつて』からの3行の文章は、漢字の意味を考えると、かしこい大地君ならだいたい理解できるとおもうけど…」

「そうですか? え〜っと」

 大地はまた〝おほもとのりと〟に目を落とした。

(つづく)

※「みろくのよ」誌・平成24年11月号から転載

第36回「すべての事業(なりわい)をなすにも」は
1月1日〔火〕に公開します

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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長