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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第41回・晴れやかな心



 音江は、納得したような表情の大地を、目を細めて見ていた。

「いや〜、『感謝祈願詞(みやびのことば)』は、奥が深いんですね」

「そうね。この『のりと』には、大神さまが天地を創造された歴史から、神さまに対する見方、神さまと人との関係、人生観や霊界観、それに人生の意義や目的、その上、生きるための心得までが、ギュッとつまっているのよね」

「全部わかったわけじゃないし、かじっただけという感じですけど、この『のりと』はホントすごいなあ〜って思いました」

「ふだん無意識に何気なく奏(あ)げていると、形式的に終わってしまうけど、一言一句、意味を考え味わいながら奏上させていただくと、新しい発見もいただけるのよ。大本信徒は、本当にすばらしい『のりと』をいただいているなあ、って思うの。ありがたいことよ」

「そうですね」

 大地はうなずいた。

「じゃ、次『神言(かみごと)』を説明しようかね?」

「あっ、いや、もう脳みそ全開で聞いて胸いっぱいになっちゃいましたんで、また今度お願いします」

 大地は慌てた様子で返答した。

「いやね〜、冗談よ、大地君」

「何だ、人が悪いなあ、おばあちゃん!」




「お母さん、若い子いじめちゃだめですよ」

 そう言いながら、恵子がリビングに入ってきた。

「これ、頂き物だけど、お母さんに渡してくれる」

 手提(てさ)げ袋を大地の前に置いた。

「ありがとうございます」

「少しだけど、さっきの〝おやき〟。たくさん頂いたので、お裾(すそ)分けよ」

「母も喜ぶと思います」

 大地は笑顔で礼を言った。

「それじゃあ、僕はこれで失礼します」

「気をつけてね」

「はい、ありがとうございます。あっ!」

 と、大地は思い出したように言った。

「あの〜、神さまにごあいさつしてなかったので、お参りさせていただいていいですか?」

「おや、感心だね。どうぞ、こっちだよ」

 音江は立ち上がって、大地をご神前に案内した。

「今、お明かりをあげるからね」

「すみません」

 音江は、燭台(しょくだい)に火をつけ、火打ち石で切り火をして、神床に火をともした。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「お参りしてから、お明かりはそのままでいいからね」

 そう言いながら音江はリビングの方へ向かった。

 大地は神床の前に進み、綾部の祖父母の家での朝夕拝時の松太郎の姿を思い浮かべながら、覚えている範囲の作法で天津祝詞(あまつのりと)を奏上した。

 町村家を訪ねる前は、ここでお参りをすることなど考えていなかったが、音江から感謝祈願詞の意味を聴き、〝このままでは帰れない〟と思ったのだった。大地は、自分自身の心境の変化にとまどってもいた。

「祖霊さまは、〝惟神霊幸倍(かんながらたまちはえ)ませ〟でいいのかなあ」

 そう思いながら手を合わせた。お参りが終わり、不思議と気持ちが晴れやかになっている自分がいることに気づいた。




「ありがとうございました」

 大地は、リビングの入口から声をかけた。

「は〜い」

 恵子の声がした。

「おばさん、〝おやき〟ありがとうございます。遠慮なくいただいて帰ります」

「お母さんによろしくね」

「はい」

 続いて音江も出てきた。

「おばあちゃん、ありがとうございました。とっても勉強になりました」

「どういたしまして、またいらっしゃい」

「あの〜、久しぶりに小布施(おぶせ)に来たんで、北斎(ほくさい)館の近くをぶらっとしたいので、少しの間、車を置かせてもらってていいですか?」

「ええ、いいわよ。ゆっくり見てらっしゃい」

「ありがとうございます」

「じゃあ、いってらっしゃい」

「はい」




 大地は玄関を出て、庭に止めていた車の助手席に、恵子からもらった〝おやき〟の入った手提げ袋を置き、ドアを閉めた。町村家の前の道路も、行き交う観光客の姿があった。五分もあるけば、北斎館に行き着く。周辺には、栗菓子で有名な小布施堂や桜井甘精堂(さくらいかんせいどう)などがあり、栗を使ったいろいろな商品が販売されている。近くの駐車場には大型バスが何台も並んでいて、今到着したのだろうかバスのドアから、大勢の人々があふれ出てきた。町並み修景事業に成功した小布施は、今では雑誌やテレビでもたびたび紹介されている。マスコミの影響力は大きく、この信州の小さな町を訪れる人の数は年々増えている。




「ここかあ」

 大地は、北斎館の前から北へ向かう「栗の小径(こみち)」の入口に立った。

「テレビで見たんで、一度歩いてみたかったんだよなあ」

 そう思いながら、歩を進めた。

 この「栗の小径」は、修景事業の一環としてつくられた遊歩道で、一面に栗の間伐材を敷きつめられたことから名づけられた。栗の木は水に強く、かつて鉄道の枕木(まくらぎ)は栗と決まっていたほどである。

 木の柔らかさと温かみが足の裏から伝わってくるような感触で、大地は心地よく歩いた。

 少し行くと高井鴻山(こうざん)記念館の門前に出た。高井鴻山は、江戸幕末に佐久間象山(しょうざん)をはじめ、当時の日本史を彩った思想家や、葛飾北斎(かつしかほくさい)など文人墨客(ぶんじんぼっかく)たちと幅広く交流があった文化人である。記念館には当時の面影を色濃く残す京町屋風の鴻山の隠宅(いんたく)とともに、鴻山が残した書画を展示してある。

 大地は記念館を横目で見ながら、「栗の小径」を道なりに進んだ。ほどなくバス通りに出た。

 信州の三月はまだ寒い日が多いが、今日は天気も良く、薄日が差していた。大地は目の前の小洒落(こじゃれ)たバス停のベンチに腰を下ろしてしばらく辺りを眺めた。




「お父さん、おなかすいたよ」

「そうだなあ、何か食べようか?」

 目の前を通り過ぎた家族連れの観光客の声が耳に入り、大地は携帯を取り出して時間を見た。

「あ〜、もう昼かぁ」

 時刻は正午近くになっていた。大地は、さっきまでの音江との会話を思い出しながら、なぜか綾部の祖父・松太郎のことを思い浮かべていた。

「そうだ」

 大地は思い出したように、持っていたショルダーバッグの中を探った。

「あっ、やっぱり入れていた」

 バッグの底に、綾部からの帰り際に松太郎からもらった文庫版の『生きがいの探求』があった。取り出して目次を見た。〝失敗と進歩〟という文字が目に留まった。ページをめくって読み進みながら、今の自分の心情と重ね合わせていた。




『よく道を歩く者は、またよくつまずくのだ、靴もよくへるのだ、いろいろと旅の辛(つら)さも感じるのだ。しかしながら、つねに進むことを心がけている者は、つねに進むのだ。より多くつまずいた者は、より多くつまずかないようになるのだ。見ねば見えず、つかまねば握れず、一度、コツンと頭を打ってみないと、堅い程度はわからない。
 世の中のことは、なんでもかでも、やってみなければ合点(がてん)がいかない。合点がいかねば魂の進歩はない。何ごとでも腹の底から、なるほどと、われとわが身に合点するまでは、だれでも思う存分したい放題をやってみればよいのだ』




「俺は今、つまずいてばっかりだけどなあ…」

 大地は、就職活動が思うようにいかない今の自分が置かれた状況を疎(うと)ましくさえ思っていた。

「一霊四魂(いちれいしこん)と五情(ごじょう)の働きで、自分の魂を磨かないといけないんだろうけどなあ…」

 音江から聞いた〝感謝祈願詞〟の意味は自分なりに理解したつもりだったが、一人になり、ふと現実に返ると、目の前に〝就職〟という壁が迫っている。

「『生きがいの探求』にも〝合点がいかねば魂の進歩はない〟って書いてあるし、とにかく納得できるまでやるだけやるかあー!」

 そう心の中で意を決してベンチから立ち上がり、一つ深呼吸してから歩き出した。




 ほどなく町村家まで戻った。

「ありがとうございました」

 大地は玄関を開け、奥に向かってお礼を言った。

「は〜い」

 恵子の声が返ってきた。

「もう帰るの?」

 そう言いながら恵子が玄関まで出てきた。

「はい、お世話になりました。これで失礼します」

「お昼ごはん、食べていったら?」

「いえ、午後から就活に行かないといけないので」

「あら、そうなの、たいへんね」

「まあ、自分で動かないと、何も始まらないので」

「そうね、がんばってね」

「はい、失礼しました」

「気をつけてね」

「ありがとうございます」

 大地は車に乗り込み町村家を出、朝来た道を自宅へ向かって帰途についた。


(つづく)

※「みろくのよ」誌・平成25年5月号から転載

第42回「就活の道」は
7月1日〔月〕に公開します




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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長