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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第42回・就活の道



 雪をかぶった北信五岳を車窓からのぞみながら、大地の車は千曲川(ちくまがわ)に架かる小布施(おぶせ)橋を渡った。日本で一番長い川である信濃川は、新潟県域から長野県にさかのぼると千曲川と呼ばれる。その昔、川中島の合戦があったのは、ここからさらに15キロメートルほど上流である。

 ふだんは穏やかな流れの千曲川だが、270年ほど前の1742(寛保2年)年8月の大洪水では、水位が10.9メートルに及んだという記録がある。「天災は忘れたころにやってくる」という諺(ことわざ)があるが、過去の災害を後世に伝えるために小布施町には、その水位を示す「千曲川大洪水水位標」が立っている。

 小布施橋を渡りきり、道なりに進むとアップルラインと呼ばれる国道18号線に当たる。交差点の信号が赤になったのを幸いに、大地は京子にメールを打った。

〝町村さん宅を出ました。30分で帰ります〟




 大地の自宅では、京子が昼食の支度をしていた。テーブルの上に置いていた携帯のメール着信音が鳴った。京子は携帯を開き、大地から届いたメッセージにすぐに返信し、携帯を閉じてつぶやいた。

「どうだったかなあ?」

 実は、京子には一つの思いがあった。大地が町村家に行けば、きっと音江から信仰的な話を聞かされるだろう。そのことが今、就活で悩んでいる大地の心に、いくらかの光となるのではないか、そう期待していた。

 運転中の大地の携帯が鳴った。

〝了解!〟

 京子からのメールが返ってきた。

「相変わらず短いメールだなぁ」

 大地は苦笑いしながら、携帯をポケットにしまった。

「さあ、早く帰って、就活に行かないと」

 大地は自宅に向かって車を走らせた。




 30分足らずで自宅に着いた。ガレージに車を入れ、自分のバッグと恵子から渡された手提げ袋を持って家に入った。

「ただいま」

「おかえり」

「これ、おばさんから」

「あら、ありがとう。何かしら」

「おやきだよ」

「まあ、うれしい。食べる?」

「いや、僕は町村さんとこでいただいたからいいよ。お母さん、食べたら」

「そうね、じゃあ3時のおやつにいただこうかなぁ。今、お昼にするからね」

「うん」

 大地はいったん2階の自分の部屋にもどり、洗面所で手を洗ってテーブルに着いた。ほどなく京子が昼食をしつらえ、2人で向かい合った。

 その時、大地は綾部で松太郎と交わした約束を思い出した。


〈おじいちゃん、僕もこれからできるだけ食事の時には、三首のお歌を拝誦するようにします〉


 と言ったものの、なかなか実践できていない後ろめたさが心にひっかかった。大地はせめてもと思い、両手を合わせた。

「いただきます」

 京子もそれに合わせるように「いただきます」と言った。

「大地、〝いただきます〟って、どんな意味か知ってる?」

「あー、それくらい知ってるよ」

 と言いながら、大地は松太郎から聞いた蘊蓄(うんちく)を語った。

「〝いただきます〟という言葉は、食材の命をいただくということ。だから人間は、自然から命をいただきながら、自分の命をつないでいるというわけ。それに、〝いただきます〟という言葉は、外国語にはあまりないんで、日本人の文化として誇るべき言葉だと、僕は思うなあー」

「へえ〜、よく知ってたね」

「社会人として、それくらい当たり前だよ」

 大地は笑いながら言った。ネタばらしはしなかったが、京子には大方の察しはついていた。




「ところで恵子さんとこ、どうだった?」

「ん、元気そうだったよ」

「おばあちゃんも?」

「おばあちゃんは元気元気! しっかりお話し聞いてきたよ」

「どんな話?」

「大本の〝のりと〟の『感謝祈願詞(みやびのことば)』の意味を教えてもらったんだけどねー」

「へぇ〜、で、どんなこと?」

「いやぁ〜、全部正確には言えないけど、とにかく勉強になったよ」

「あらそう、良かったね」

 そう言いながら恵子は内心、音江が自分の期待に応えてくれたことに感謝した。




「ごちそうさま。これから面接に行ってくるよ」

「そうなの。がんばってね」

「うん、そんなに遅くはならないと思うけど…」

「気をつけてね」

 大地は自分の部屋でスーツに着替えて、面接を取り付けていた長野市内の企業に出向いた。案内された部屋に入ると、すでに数人の大学卒とおぼしき青年が待っていた。順番を待ち、無事面接を終えたが、手応えはなかった。

「またダメだろうな」

 そんな消極的な気持ちで面接会場から外に出ると、暮れなずむ信州の3月の風が、いつもより冷たく感じた。




 大学の卒業式も終わり、4月、5月と無情に時間が過ぎていった。なかなか就職先が見つからない。家ではできるだけ明るく振る舞っていた大地だったが、部屋で一人になると気持ちは落ち込んでくる。

「まあ、何とかなるよ」

 そう言う京子の生来の楽天的な気持ちが、せめてもの救いだった。父親も大地に同情するものの、就職できないことを責めたりはしなかった。

 気持ちがめいりそうになると、祖父・松太郎からもらった『生きがいの探求』を開くのが常になっていた。

「世の中、思うようにいかないよなあ〜」

 と思いながら、目次を開くと、〝世の中とは〟、という文字が目にとまった。大地はそのページを開き、読み進めた。


『世界は無限にあるものを、何を苦しんで人々は、たわいもないことに執着し、懊悩(おうのう)するのだろう!

 楽をしようという気持ちをすてて、どうせこういう世の中であるから、はじめから、苦労をしようと覚悟をきめてかかることだ。そうすれば、少々のことがあっても、ありがたいありがたいでやっていけるものである。

 目は目、鼻は鼻、口は口、みなそれぞれの職能がある。目をして鼻の代わりをつとめさせるわけにはいかず、鼻をもって口の代わりをさせることもできない。人おのおのにその長所がある。他人がまねのできない、その人独特の能力を持っているものである。ゆえに、お互いに相互の長所を学び、これをもってあい助け合っていくならば、自然に世の中は円満無碍(えんまんむげ)におさまっていくのである』

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「僕に、他人がまねできない能力があるんだろうか?」

 そう自問してみた。が、今の大地には答えは見つからない。

「あ〜、明日から6月かぁ。とにかく就職先を探すしかないなー」

 大地は思い直し、『生きがいの探求』を閉じてベッドに横になり、気分転換にと、コミック本を手にとった。

 友人が貸してくれた『宇宙兄弟』。期待せずに読み始めたが、これがなかなかおもしろい。

 謎のUFOを目撃した主人公の南波六太(むつた)と弟の日々人(ひびと)が〝一緒に宇宙飛行士になろう〟と誓い合う。ところが、弟の日々人の方が先に宇宙飛行士となり、初めて月面に立つ日本人として選ばれる。一方、夢をあきらめていた六太は、紆余曲折を経た末に、日々人からのメッセージを受けて、再び宇宙飛行士を目指し始める、というストーリーがコミカルながら感動的に描かれている。

 おっちょこちょいだが夢をあきらめない主人公・六太の姿が、今の大地には共感できた。

「俺も六太を見習わないとなあ」

 そう思いながらが読んでいるうちに、いつの間にか眠っていた。




 翌日、午前と午後、それぞれ一件ずつ面接があった。午前中は長野市内、午後は中野市にある中小企業だった。面接はそつなくこなしたが、またしても手応えはなかった。

 日が暮れるころ、大地は自宅に戻った。

「ただいま」

 元気のない声だった。

「おかえり、どうだった?」

「んー、たぶんダメだな〜」

「あら、そう。残念ね」

「お母さんは、いつも軽く流すね」

「そんなことないわよ、これでも心配してるんだから」

明日またハローワークに行ってくるよ」

 大地は、ひとつため息をついた。

(つづく)

※「みろくのよ」誌・平成25年6月号から転載

第43回「生きがい講座」は
8月1日〔木〕に公開します




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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長