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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第43回・生きがい講座



 大学を卒業して3カ月ほどが過ぎた。大地は長野駅に近いハローワーク長野で求人案内を探し、窓口の担当者にいろいろ相談しながら就活を続けていた。それでもなかなか思うようにいかない現実があった。就職氷河期といわれる時代に当たった不運を恨みもした。

「どうしてうまくいかないのかなぁ」

 時間の経過とともに大地の心の中には、焦りの色が濃くなっていた。

 そんな時、長野市内に大手のホテルが開業する予定があり、ベルボーイを求人しているという情報を耳にした。大地は早速応募した。数日後の面接の結果、開業前からの研修を含め就職がかなうこととなった。自分が求めている仕事かどうかは、大地自身わからなかったが、せっかくのチャンスだと考え、ホテルマンとしての道を歩む決意をした。家族も喜んでくれ、大地もほっとする思いであった。

 ところが1カ月後、ホテルの開業が大幅に遅れることがわかった。いつになるかわからないものを待つ気もなかった大地は、内定を蹴って振り出しに戻すことにした。




「ついてないよなあ〜」

 再び就活である。長野市内にはほかに、少し離れた篠ノ井(しのい)駅前と、隣の須坂(すざか)市にもハローワークがあった。大地は気分転換のつもりで、ハローワーク須坂を訪ねてみた。

「あれ、こんなところがあったんだ?」

 大地の目にとまったのは、パン屋等で使う備品を扱う会社の求人だった。

「家からもそう遠くないし、応募してみようかなぁ」

 窓口で相談すると、すぐに相手先に連絡してくれ、2日後の面接を取り付けられた。大地は運命的なものを感じ、指定された日時に会社を訪ねた。

「よしだ工房」という看板が掛かった入り口から入り、事務所の戸を叩(たた)いた。作業着姿の男性が出て来た。

「ああ、聞いてるよ。専務たちに連絡してくるから、ここで待ってて」

 そう言って小さな応接室に通された。面接は何度も経験していたせいか、以前ほど緊張しなくなっていた。

「なるがままよ」

 という心境で臨んだのがよかったのか、「じゃあ、1週間後の月曜から来てもらおうかな」ということになり、あっさり決まってしまった。

 自宅に帰って報告すると、「あら、良かったね」と、京子がたいそう喜んでくれ、大地も安心した。その後、よしだ工房のことをいろいろと調べてみると、地元でも優良な企業であることがわかった。

「大地君は、いいところに就職できたね」

 よしだ工房を知っている人は異口同音にそう言って祝ってくれた。




 大地は主に営業を担当するようになった。最初は先輩について得意先を回ったり、新規開拓に携わっていたが、1年もすると1人でまかされるようになった。大地自身、自分が営業に向いているらしいことを、仕事をしながら自覚するようになった。

「どう、仕事楽しい?」

 京子から聞かれた。

「うん、楽しいよ。今日も一軒、新しく開店するパン屋さんに備品を納品しに行ったんだけど、お店の人と話をしていると楽しいんだよ。やりがいもあるしね」

 この時、大地はこの仕事をずっと続けていこうと思っていた。




 しかし、2年が過ぎたころ、本当は営業に向いていないのでは、と思うようになった。

「このままでいいのかなあ?」

 ふとそう思うことが多くなってきた。

「どうしたの? 何だか元気ないみたいだけど、カゼでもひいたの?」

 大地の心の変化を京子は感じていた。

「ん〜、ちょっとね」

「ちょっと何よ?」

「仕事はやりがいはあるんだけど、何か違うんだよなあ〜」

「せっかく順調に仕事できてるんでしょ。北海道や九州にも出張したり、先月なんて、韓国にも行ったじゃない」

「まあ、韓国では空港を出た途端に、乗ってたタクシーが追突されて、初海外の初訪問先が、病院だったけどね」(笑)

「そうだったわよね、でもあの時は大したことなくて良かったよね」

 京子は笑いながら言った。




 営業先でお客さんと話をすることは楽しかった。しかし、いざ商品を薦(すす)める段になって、相手が望んでいる商品に関し、自社より他社の方に良い商品があることを知っていると、つい相手の立場に立ってしまい、他社製品を薦めてしまう自分がいた。

「これじゃあ、会社のためにはならないよなあ。営業失格だ」

 そんな大地の心情が顔に表れているのを、京子は少なからず心配していた。

 夕食の前、京子が大地に1枚のチラシを渡した。

「今日、恵子さんが来てね。町村のおばあちゃんからだと言って、このチラシをいただいたのよ」

 見ると〝生きがい講座〟とあった。

「私はちょうど用事が入っている日で、恵子さんにお断りしたら、大地君は行けないかしら、って。おばあちゃんが大地君にも声をかけてって言っておられたそうよ」

「町村のおばあちゃんが?」

「そう。で、どう? 行ける?」

「いつ?」

「半月後の日曜日ね。お休みでしょ」

「たぶん」

「松代(まつしろ)荘で午後1時からみたいね」

「どんな話なの?」

「え〜と、〝死をみつめて今を生きる〜霊界と魂の関係〜〟ってタイトルだから、霊界の話かな」

 大地は以前、祖父の松太郎から聞いた〝みたままつり〟の話を思い出していた。

「霊界の話ならおもしろそうだね」

「じゃ、行くでしょ」

「ああ、行けたら行くよ」

「じゃあ、恵子さんにそう電話しとくね。おばあちゃんもよろこぶよ、きっと」

「ちょっと母さん、まだ行けるかわからないから…」

 そう言い終わる前に、京子は受話器をとって、町村家に電話を入れた。

「もう、母さん。気が早いんだから」




 〝生きがい講座〟開催の日は、朝から夏の太陽が照りつける好天に恵まれた。会場となった松代荘の駐車場はすでに多くの車が止まっていた。車を降りたところで、町村恵子と音江に出会った。

「おばさん、こんにちは」

「あー、大地君よく来てくれたね」

「おばあちゃん、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「ありがとう、今日は来てくれてうれしいよ」

「はい、休みでしたから」

「さあ、中へ行きましょ」

 2人にうながされるまま、大地は施設内に入った。講座会場にはすでに30人以上の人が集まっていた。大地たちは空いている席に座った。地元の大本長野主会主催で開催されるこの講座は、年1回開催され、今回の講師は大本本部の高村浩一東海教区特派宣伝使だった。

 高村特派は、昨年の東日本大震災以降、さまざまな価値観が大きく変わってきていると語り、

「目に見える世界もさることながら、目に見えない世界を感じ、その世界と人の魂や心とがどのようにつながっているのかを知ることは、人生にとって大きな糧になります」

 と言って、日本人が古代から持ち続けてきた死生観を説き、大本で示されている霊界の様子をわかりやすく説明し、

「死や霊界の様子を知ることにより、今をどう生きるかということが、自ずと見えてくるのではないでしょうか」

 と、力強く語った。


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 大地は、松太郎から聞いていた予備知識があったせいか、理解できる部分が多く、講師の話に引き込まれていった。

 質疑応答でも、参加者と講師のやり取りがおもしろかった。質問をしてみようかと思ったが、気後れしてやめてしまった。




 予定されていた2時間があっという間に過ぎ、大きな拍手で講座が終了した。

「ちょっと先生にあいさつしてくるね」

 そう言って音江が高村特派のそばへ歩み寄っていった。音江の「ついてきなさい」という目配せを感じ、大地と恵子も後に続いた。音江は親しそうに高村特派にあいさつをして、大地を紹介した。

「大地君、何か質問あるでしょ」

 音江が突然話をふってきた。大地は驚いたが、講座の中で気になった言葉を質問してみた。

「あの〜、お話の中で〝愛と信〟が大切だとおっしゃっていましたが、どういうことか、もう少しうかがいたいと思ったんですが…」

「そう、とても大切な部分に興味を持ったんだね。講座の中ではあまり深くお話しできなかったけど、詳しく話してもいいかい?」

 高村特派は笑顔で応えた。

「時間は大丈夫ですか?」

 音江に訊(き)いた。

「私は大丈夫ですよ。先生はいいんですか?」

「私はもちろん大丈夫ですよ。こんな青年からの良い質問ですからね。しっかりお答えしたいですし」

「お願いします」

「この会場は片付けると思いますので、10分後くらいにロビーでいかがですか?」

「そうしましょう」

 音江はそういうと、大地と恵子といっしょにロビーへ向かい、中庭の見えるソファに腰を下ろした。

(つづく)


※「みろくのよ」誌・平成25年7月号から転載

第44回「愛善と愛悪」は
9月上旬に公開します




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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長