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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第49回・「ありがたい」と思う心

「恵子さん、今何時?」

 恵子はバッグから携帯電話を取りだして、時間を確認した。

「五時ちょっと前ですね」

「おや、もうそんな時間になってたんだね。高村先生、遅くまですみません」

「いえ、かまいませんよ」

 高村が言った。

「いろいろと勉強になりました。ありがとうございました」

 大地はそう言いながら、資料を高村に返そうとした。

「よかったら差し上げるよ」

「えっ、いいんですか。ありがとうございます」

「またゆっくり読んで勉強しておいて」

「はい、また読ませていただきます」

 大地は頭を下げて、資料を自分のバッグにしまった。

「では先生、これで失礼します」

 音江が挨拶すると、恵子と大地も頭を下げ、四人はいっしょにソファ

から立ち上がり、玄関に向かった。

「先生はこれからどうなさるんですか?」 歩きながら恵子が高村に

訊いた。

「せっかくなので、ここの温泉に入ってから、主会長のお宅に

向かいます」

「そうですか。じゃあ、先生ここで」

「いえ、お見送りしますよ」

「あらぁ、ありがたいねえ」

音江がまた頭を下げた。

 地面がさっき降った夕立で湿っている。

「もう少ししっかり降ってくれたら涼しくなったのにね。

かえって蒸し暑くなったみたい」

「そんな感じですね」

 恵子の言葉に、大地が反応した。

「大地君、おかあさんによろしくね」

「はい、ありがとうございます」

「じゃ、大地君、またどこかで会いましょう。

できれば、亀岡の聖地でね」

 高村が聖地参拝を誘うように言った。

「そうですね。機会があれば…」

 大地が返答した。

「町村さんお気を付けて。お元気でね」

「はい、ありがとうございます」

 駐車場で、互いに挨拶し、音江と恵子、大地はそれぞれの車に乗り、

高村の見送りを受けて、松代荘を後にした。

「ただいま」

 自宅に着いた大地は、明るい声でリビングのドアを開けた。

「おかえりなさい。さっき恵子さんから電話があったのよ。

高村先生とお話ししてたんだってぇ。良かったね」

 台所に立っていた京子が、そう言いなが振り向いた。

「なんだ、情報が早いなあ」

「そうよ、恵子さんだもの。で、どうだった?」

「うん、いろいろ勉強になったよ。以前、綾部のおじいちゃんから

聞いてたことがあったおかげで、分かりやすかったよ」

「そう、良かったわね。もう少ししたらおとうさんも帰ってくる

と思うから、夕食にしようね」

「おとうさん、今日も仕事?」

「今日はね、高井さんとこの友ちゃんの結婚式で、

披露宴に行ってるのよ」

「あ〜、おとうさんの同級生の高井さん?」

「そう、おとうさんととっても仲良しで、長女の友ちゃんも

赤ちゃんのときからよく知っているでしょ。

だから友ちゃんから、ぜひ披露宴に出席してほしいって頼まれたみたいよ」

「へえ〜、そうなんだ」

「なんだか、自分の娘を嫁にやるみたいだ、って言ってたのよ」

「〝わが家のお嬢さん〟は、当分結婚しそうにないしね」

「そうね」

 妹のちあきはこの春、美容の専門学校を卒業して、東京・表参道に

ある美容院に就職した。駆け出しの美容師で、将来はスタイリストを

目指している。

「かなり忙しいみたいで、夏休みも帰ってくるかどうか…」

 京子が言った。

「やりたいことをやれてるんだからいいんじゃないの」

「元気で仕事ができてたら、それでいいけどね」

「司は?」

 大地が訊いた。

 弟の司は、春から大学の一回生。自宅から松本市内のキャンパス

まで通っている。

「夏休みだから、遊びに行ってるのか、サークルかなあ? 

友達もできたみたいだし」

「女の子かな?」

「さあねぇ?」

 京子が笑顔で話を続けた。

「大学に入った時は、〝友達ができない〟って悩んでたけど、

二月もしたら、泊まれるところもいくつかできたみたいで、

しょっちゅう帰ってこないことがあるでしょ」

「そうそう、三カ所ぐらいは〝ねぐら〟があるって言ってたよ。

大学生活をエンジョイしてるからいいんじゃないの。

僕もそうだったけど、司は今、楽しい時だよ」

「そうみたいね。ちゃんと勉強もしてもらわないと困るけどね」

「まあ、大丈夫でしょ」

 大地は軽い口調で言った。

「あれ、こんなのあったっけ?」

「ん、何?」

「ここに置いてあるカレンダーみたいなの」

「あ〜、それね。昨日綾部のおばあちゃんが送ってくれた荷物の中に

入ってたのよ。『こころの鏡』っていう大本の日めくりカレンダーよ。

いいでしょ、それ」

 京子はそう言いながら、大地の方へ歩み寄ってきた。

「いやいや、今初めて見たから…」

 大地は、……そんなにすぐわかるわけないだろう…

と思いながら言った。

「教主さまのご就任十周年の記念品だって書いてあったけど、

二つあったからって、一つを野菜といっしょに送ってくれたのよ。

いいこと書いてあるのよねぇ」

 大地も近づいて見た。

 今日は七月一日。〝1日〟の文字の下に、耀盌の水指の写真が

あって、横に〝出口王仁三郎聖師さま作 水指「如衣」〟とあり、

右に出口日出麿尊師さま『信仰覚書』第五巻の一節が記されている。

 どんな場合でも
「ありがたい」と思う心
 これは神に近づく
 第一歩である

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「このお示し、心に染みない?」

「ん〜、なるほどねぇ。簡単な言葉だけど、奥が深い感じだよね」

「わかる?」

「いやぁ……。でも、信心深い人っていうのは、こういうことなんだろうね。

町村のおばあちゃんがそうじゃない?」

 大地が音江のことを思い出して言った。

「そうね。町村さんは、〝ありがたいねえ〟っていう言葉を、

いつも自然と口にしているものね」

 京子が頷きながら言った。


「営業でお客さんのところを回ってると、いろんな人と会うんだけど、

いつも苦情のように小言や文句ばっかり言ってる人もいてね。

そんな人と話をしていると、ものすごく疲れるんだよね」

「そういう人は、眉間にシワを寄せてて、いつも難しい顔してない?」

「そうなんだよねぇ」

 大地は相づちを打ちながら言った。

「そうかと思うと、いつもニコニコして、やさしい言葉をかけてくれる

人もあるんだ。そんな人と話をしていると、

何だかホッとするんだよね」

「大地もいい勉強してるんだね」

「まあ、一応社会人ですからね」

 笑顔でそう言った後、大地は腕組みしながら『こころの鏡』を見て、

少し考えた後に言葉を続けた。

「おかあさん、このお示しは、一行目がポイントだよね」

「えっ、一行目?」

 京子は大地の言葉を聞き返し、『こころの鏡』に目をやった。

「だって、誰が見てもありがたい場面や状況なら、普段小言ばっかり

言っているような人は別としても、普通の人だったら

〝ありがたいなあ〟って思えるでしょ。

でも、〝どんな場合でも〟っていうことは、ものすごくつらく

苦しい時にでも、っていうことでしょ」

「そうねぇ」

「死にそうに苦しいときにでも、〝ありがたい〟と思えるということは、

なかなかできないよ。おかあさん、できる?

 少なくとも今の僕には無理だよ」

 ……私だってそうかもしれない。

 京子は無言で頷いた。

「だから、どんな場合でも〝ありがたい〟と思う心を持てるということは、

たいへんなことだよなあ」

 大地は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「ホントね。このお示しを実践しようと思うと、

よっぽど覚悟を決めないといけないのかもしれないね。

というより…、頭で考えている間はダメなのかもね。

そんなことは意識しなくて、自然と〝ありがたいなあ〟って思える

ようにならないといけないんだろうね」

「そういうことだよね」

 大地が神妙に言った。

「ただいま!」

 玄関で声がした。

「おとうさん、帰ってきたね」

「そうね。さあ、夕飯の支度、支度…。ありがたいねえ!」

「おかあさんの〝ありがたい〟は、なんかわざとらしいなあ」

 大地が笑いながら言った。

「そうぉ」

 ……大地も成長したわね。

 京子は大地から大切なことを教えられたような気がして、

少し嬉しくなり、笑みがこぼれていた。

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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長