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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第65回・『不思議な出会い』

 その後、看病の期間が長くなり、本宮は、日ごとに弱っていく母親の姿をみるにつけ、次第に哀れに思えてきた。それまで、母親の無茶な頼みを聞き流していたが、少しずつ思いを変えていた。

 ……老い先短い母のために、結婚するふりだけでもしておこうか。

 そう思うようになった。

 本宮はある日、母親に告げた。

「おれ、結婚してあげるよ」

「そうか」

 母親はことのほか喜んだ。

「ところで、相手は誰?」

 本宮が尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「知らん!」

 本宮はあきれた。

「知らんのに結婚できるわけないやろ!」

 本宮はいぶかりながら言葉を継いだ。

 すると母親はおもむろに口を開いた。

「誰か知らんけど、ちゃんと用意されとるんや」

「どういうこと?」

「大阪本苑の月次祭に行ってくれ。そしたら、本苑のトイレ掃除をしている女の子がおるから、その子は私の娘やから、家に帰ってきてほしいんや」

 本宮は不思議に思った。なぜなら母親自身、半年以上も入院しているわけで、その間一度も大阪本苑にお参りしていない。ましてや本苑のトイレ掃除を誰がしているかなど、知るよしもなかったからである。それなのに、〝トイレ掃除をしている女性が相手だ〟というのだ。

 何とも絵空事のような話である。

「で、その人はどこの誰?」

と尋ねても、母親は〝名前も、所も知らん!〟というのである。

「そんな雲をつかむような話、納得できるわけないやろ」

 しかし、何度言っても、母親の答えは同じだった。

「とにかく、来月の大阪本苑の月次祭に行ってくれ」

 それでも本宮は、結婚相手がいると言い張る母親を安心させるために、「わかった、わかった」と、渋々承諾した。


 翌月、本宮は大阪市西成区にある大本大阪本苑の月次祭に参拝した。本苑に着くなり、本苑のトイレへ行ってみた。

 果たしてそこには、母親が言うように、一人の女性がトイレ掃除をしていたのである。

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 本宮は、「不思議なことがあるなあ」と思ったが、「大所帯の本苑だから、たまたまトイレ掃除している人もいるだろうしなあ」と思い直した。その日、本宮は女性の名前も聞かないで、祭典にお参りだけして帰った。

 帰宅後、本宮は病院の母親の元を訪ねた。

「女の子がおったやろ」

「ああ、おったよ」

「何で連れて帰ってこんかったんや」

「そんな、犬や猫じゃあるまいし、初対面の女性にいきなり〝結婚してください〟って頼んで連れてこられるわけないやろ」

 そう説明しても、母親は納得しなかった。そして、

「その子は私の娘や」

と強く主張するのである。

「なんでや」

「なんでやもなんも、私の娘なんやから」

と母親は訳のわからないことを繰り返すばかりだった。

 そしてさらに、

「頼むから来月もう一回行って、その娘(こ)を連れて帰ってきてくれ」

と頼み入るのであった。

 それからというもの、母親は毎日のようにベッドの上から繰り返し頼むので、本宮も仕方なく、翌月も大阪本苑に出掛けた。


 するとやはりくだんの女性が一人でトイレ掃除をしていた。本宮は不思議に思いながらも、意を決して名前を尋ねてみた。

「あなた、お名前は?」

「光橋隆子(みつはしたかこ)と言います」

「何でトイレ掃除をしてはんの?」

「はい、病気がちの父が、自分の代わりに大阪本苑へお参りに行ってくれと言うもので、参拝に来ました。それで、トイレを使おうと思ったら少し汚れていたので、お掃除させてもらっていました」


 その日はそこまでの会話をしただけで、月次祭後本苑をあとにし、本宮は病室の母親を訪ねた。

「おったやろ」

「ああ、おったよ」

「所と名前も聞いたか」

「ああ、聞いたよ」

 本宮は彼女から聞いた住所と名前を告げた。

「その家へ行ってご両親に頼んで、その娘をもろうてきてくれ」

 本宮は、「何と無茶なことを言うんだ」、と思いながらも、母親を安心させたい一心で、仕方なく光橋家を訪ねることになった。


 数日後、本宮は先方の自宅を訪ね、彼女の両親に、自分の素性と母親の病状を伝え、そして申し訳なさそうに、来訪の理由を正直に話した。すると先方の父親から、意外な言葉が返ってきた。

「まあ、本人が良いならいいですよ」

 本宮は拍子抜けしたが、さらに言葉を続けた。

「では、ご本人にお話ししてもよろしいですか?」

「どうぞ、どうぞ」

 思わぬ展開となってきた。本宮の母親と先方の父親が親しい間柄ならまだしも、顔も知らないのに、あっさりと承諾されたことに驚くほかなかった。


 本宮は、続いて隆子に会い、「実は…」と、事の顛末(てんまつ)を話した。その上で、その後のことを頼むことにした。

「いきなり結婚というのも無茶な話なので、とにかく一度母に会ってみて、婚約するふりをしてもらってもいいでしょうか?」

 隆子は敏夫の依頼を承諾し、「とにかく一度お目にかかってみます」ということになった。


 後日、本宮は隆子を母親の病室に連れていき紹介した。

「この人が、本苑のトイレ掃除をしていた女性だよ」

と言った。

「あっ、隆子、あんたよう来てくれたなあ。あんたは私の娘やで。私の家に帰ってきてや」

 母親は第一声、そう言ったのである。隆子はきょとんとするばかりだった。本宮はびっくりして母親に言った。

「失礼なこと言うなよ。初対面の娘さんをいきなり呼び捨てにしたらあかんやろ」

 すると母親は反論した。

「自分の娘を呼び捨てにして何が悪い。この子はうちの娘や」

 その様子を見て隆子は二人の間に入った。

「いいですよ。お母さんがそう言ってくださるのなら、隆子でいいですよ」

「この敏夫といっしょになって、私の家に帰ってきてくれるか」

 母親は何度も懇願するのであったが、さすがに隆子も、その日に「はい」と承諾することはできなかった。


 数日後、敏夫が病院から自宅に戻ると、洗濯物がたたまれ、食事の支度もしてあった。本宮は不思議に思ったが、そこにはかいがいしく働く隆子の姿があった。聞くと、本宮の母親があまりに懇願するものだから、本宮家がどんな家なのか見に来たというのである。

「昨日、家に入ると洗濯物はそのままで、ご飯も炊けてなかったので、今日は仕事の帰りに寄せてもらいました」

 隆子は笑顔で答えた。いじらしい隆子の顔を見つめ、本宮は心から感謝した。

 それから、隆子は足しげく本宮家に通うようになり、病院の母親も見舞ってくれるようになった。

 母親はたいそう喜び、本宮をそっちのけにして、「隆子、隆子」と、本当の娘のように遠慮なく用事を頼むのであった。隆子も自分の母親のように世話をし、はた目には実の母娘(おやこ)に見えるばかりだった。さらには、本宮家にも違和感なく居着いてしまったような状態になった。

 ならばと本宮は、母親の言う通りに、婚約すれば、病状が進行している母親も安心して霊界へ旅立ってくれることだろうと思うようになった。

 そのことを隆子に頼むと、思わぬ言葉が返ってきた。

「婚約するのなら、結婚してもいいですよ」

 本宮は驚いた。本宮自身、長男として母親の入院費用を稼ぐために人一倍働かなければならなかったし、弟妹(きょうだい)の面倒もみなくてはならず、実のところ伴侶を迎える余裕はなかった。仮に婚約しても隆子に対して十分なことができず、申し訳ない思いがあった。

 しかし、隆子はすべての現状を承知の上で、本宮親子の願いを受け入れたのである。


 その年の秋、二人は華燭(かしょく)の典(てん)をあげた。そのころから、母親の病状は燃え尽きるロウソクが最後に燃え上がるように、しばらくの間病状が安定し、その後、二人の行く末を見届けるかのように、安らかに天界へ旅立っていった。

 大地は、本宮の話を真剣に聞いていた。

「そんなことがあるんですね。で、本宮さんのお母さんはなぜ奥さんの存在を、そんなふうにわかったんですか?」

 大地が本宮に尋ねた。

「いや、それが最後までわからなかったんだよ」

「え~、そうなんですか、不思議な話ですね。でも、奥さんもすごい方ですね」

「そうなんだよ。結婚前後は彼女に対して喜んでもらえることは何にもできなかったから、せめて〝結婚して良かった〟と思ってもらえればと努力してきたんだけど…」

「で、それは果たせたのかな?」

 松太郎が訊(き)いた。

「さあ、どうでしょうか?」

 本宮は笑いながら答え、それにつられて、松太郎と大地も笑顔になった。

「でもね、この話には、後日談があるんだよ」

 本宮の一言に、大地が身を乗り出した。

(続く)

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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長