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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第67回・『決意』

 みろく大祭当夜の梅木家の夕餉(ゆうげ)は、本宮夫妻の不思議な因縁話で盛り上がった。途中から、ともと京子も加わり、あっという間に時間がたっていった。

「いや~、すっかりごちそうになりました。長いことお邪魔してしもうて、そろそろ失礼します」

 本宮が腕時計に目をやりながら言った。

「こちらこそ、お引き留(と)めして悪かったですね。でも、おかげで楽しい時間を過ごせましたよ」

 松太郎が頭を下げながら言った。

「不思議なお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました」

 大地がお礼を言った。

「いや、こちらこそ楽しかったよ。ところで、大地君たちは、いつまでこちらにいるの?」

 椅子から立ち上がりながら、本宮が訊(き)いた。

「明後日(あさって)から仕事なので、明日中には長野に帰らないといけないんです」

 大地が答えた。

「明日六日がゴールデンウイークの最終日で、高速道路も混むでしょうから、あわてずゆっくり帰ります」

 京子が言った。

「そうですか、どうぞお気をつけて。また、夏の瑞生大祭か、秋の大本開祖大祭でお会いできたらいいですね」

 本宮が笑顔で言った。


 翌朝もさわやかな五月晴れとなった。

 今回、京子と大地は車での帰省だったため、ともは孫のためにとたくさんの土産を用意した。野菜や雑貨など、手近にあったいろいろな品物を大きめの段ボール箱に詰めて大地に持たせた。大地はその荷物を車のトランクに積み込んだ。

 午前九時過ぎ、京子と大地は、松太郎夫妻に見送られ、綾部をたった。

 案の定、東名高速道路は渋滞になっていたが、中央自動車道ではいくぶん解消し、さらに長野自動車に入ると車はスムーズに流れていて、夕方には長野の自宅に帰り着いた。


「ただいま~!」

「おかえりなさ~い」

 京子と大地の声に、奥から返事があった。大地の弟、司(つかさ)の声だった。

「長い間、ありがとうございました」

 リビングに入り、京子が夫・剛(たけし)に声をかけた。

「おかえり。お父さんとお母さんはお元気だったかい?」

「ええ、すこぶる元気よ」

「そりゃあ、何よりだったね」

 剛が笑顔になった。

「そうそう、司、おばあちゃんからいっぱいお土産もらってきたからね」

 京子が司に向かって言った。

「お~、ありがとう」

「司、これだよ」

 大地が段ボール箱を司の前に置いた。司はそれをうれしそうな様子で開けた。

「司、今日はバイトはなかったの?」

 大地が訊いた。

「あったよ。今日は早出だったから、さっき帰ってきたところだよ」

「そっか、お疲れさん。ゴールデンウイークは司が行っているコンビニも忙しかっただろ?」

「まあね。普段よりは、観光客が少し多かったってとこかな」

 司は今年大学の三年生。来年の就職活動に向けて、少しずつ準備をしながら、アルバイトにも精を出している。

 その夜は、家族四人、ひさしぶりにそろって夕食のテーブルを囲んだ。


「ちあきは、今年のゴールデンウイークも帰省できなかったね」

 大地が妹のちあきの話題を出した。

「連休中はお店が忙しいから、仕方ないわよね」

 京子が答えた。

 雨宮家には、もう一人、大地の三歳下の妹がいる。司の姉である。ちあきは三年前に美容の専門学校を出て、今は東京で美容師になるための修行中である。

「まだアシスタントだから、一人前になるためには、相当努力しないとダメみたいよ。なかなか厳しいようね」

 京子が言葉を継いだ。

「一度店を替わっているからなあ」

 剛が思い出したように言った。

「最初に就職して一年くらいたってからだっけ?」

 大地が訊いた。

「いや、半年ぐらいだったわよ。最初のお店は、東京駅に近いオフィス街にあって、条件的には良かったんだけど、〝ここでは自分の目指す技術は身につけられない〟って、きっぱり見切って辞めたのよね。話を聞いたときはびっくりして心配したけど、今考えると良かったわね」

「あの娘は、やるとなったら突き進むタイプだからなあ。今のお店も、自分で探し回って、〝ここ〟と決めたお店に飛び込み、何回も頼み込んで、やっと採用してもらったんだったなあ」

 剛が言った。

「表参道の美容室激戦区の人気店に、ツテやコネなしで入ったんでしょ。お姉ちゃん、やるよね」

 司が言った。

 大地は、ちあきのことを聞きながら、知っていることとはいえ、あらためて妹の決断力と果敢な行動力に対して、うらやましく思った。

〝自分は今のままでいいのか?〟……そう思う大地だった。


 平成二十七年、夏。JR中央本線を走る特急「しなの」の車窓からは、木曽八景の一つ〝寝覚めの床〟が一望できた。巨大な花こう岩が木曽川の激流に刻まれてできた自然の彫刻といわれる景勝地だ。走り過ぎる景色を漠然と見ながら、大地は少し不安な面持ちでいた。

 大地は、京都府亀岡市の天恩郷に向かっていた。五年前の冬、初めての節分大祭に参拝した帰りには、車窓から雪におおわれたこの景色を見たことを思い出した。

 ……あの時は就職先が見つからず焦っていた時だったなあ。

 その時手にしていたのが、松太郎から手渡された『生きがいの探求』(文庫版)だった。そして、ちょうどこの辺りで読んだ一節に心が救われたことを思い出した。


 淋しいでしょう 辛いでしょう

 しかし辛棒してください

 もう少しです

 明けぬ闇はなく

 尽きぬ冬はありません

 歯を食いしばってでも

 土にかじりついてでも

 どうなりこうなりこの峠を越えてください

 〝ああだめだ〟などとはけっして言わぬことです

 東でゆきづまったら西へまわりなさい

 南がふさがったら北へお逃げなさい

 東西南北みなだめでしたら

 しばらくそこで臥(ね)ていてください

 天地は毎日かわる……


 大地が大好きなお示しである。いつもかばんに入れている『生きがいの探求』を取り出し、ページをめくった。

 当時の気持ちがよみがえり、今の心境と重なるような思いだった。

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 大地は昨年、せっかく就職し順調に仕事もこなしていた「よしだ工房」を依願退職していた。仕事に対しての不満があったわけではなかったが、〝自分がしたいことは本当にこの仕事なのか〟と自問していた。その思いが次第に強くなり、悩んだ末、〝あること〟をきっかけに一つの結論に達した。

 その〝あること〟とは、大本長野主会で開催された「少年夏期学級」だった。

 大地はそれまで、長野主会青年部に関わりをもっていたわけではなかったが、京子の友人である小布施支部の町村恵子を通じて、夏期学級の手伝いを頼まれた。

 最初は躊躇(ちゅうちょ)していたが、京子の積極的な勧めもあり、仕方なく手伝うことにした。うまい具合、会社の夏休みもとることができ、開催のための準備から関わった。

 その集まりの中で大地は、少ない人数で一生懸命に取り組む長野主会の青年らの姿に接し、〝自分も彼らの役に立ちたい〟という思いがわいてきたのだった。


 夏期学級は、わずか一泊二日の開催だったが、参加した子供たちの世話をしながら、子供と接することの楽しさを味わった。もともと大地は子供好きだったが、忘れかけていた気持ちに火が着いたような思いだった。

 ……子供に関わる仕事がしたい!

 その気持ちが大地を突き動かした。そしてその年の暮れ、会社を辞めることを決意したのだった。

 話を切り出した時、社長からは慰留されたが、大地が自分の〝決意〟を伝えると理解してくれ、快く承諾してくれた。

 その大地の〝決意〟は、「中学校の教師になる」という道だった。


 大学時代、幸いにも大地は教員免許だけはとっていた。これが役に立つことになった。あとは採用試験である。

 大地は今年に入り、レタス収穫のアルバイトをしながら、採用試験受験のため、学生時代以上に猛勉強した。

 そして七月中旬、長野県の公立学校教員採用試験の一次選考を受けた。終わって翌週は、昨年同様、長野主会の夏期学級に顔を出した。

 それは自分の〝決意〟が正しかったかどうか確かめる意味でも、貴重な時間となった。そして、自分が選択した道が間違っていなかったことを再確認できたのだった。

 さらに、夏期学級には本部から高村浩一特派が指導に来ていて、夏期学級が終わって高村から聞いた〝祈り〟についてのおかげ話が、大地の心に深く刻まれたのだった。

(続く)

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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長