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HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第68回・『取り込み詐欺』

 大地は特急「しなの」の車窓から走り行く景色を眺めながら、数日前、高村特派から聞いた体験談を思い出していた。

 その話は、高村が別の教区の特派を担当していた時のことで、六十歳代の女性信徒・Sさんから身の上相談を受けたことに始まった。


「Sさんは、その時初めてお会いしたご婦人で、呉服の行商をしておられました」

「呉服の行商?」

 大地が首をかしげた。

「だいぶ以前の話だから、今もそうした商売の仕方があるのかどうかわからないけど、呉服屋さんから五反(たん)とか十反とか、まとめて反物を預かって、個人の家を一軒ずつ訪問する商いなんだよ」

「そういう商売があったんですね」

「二十歳になる娘さんがいる家だったら、振り袖用の反物を勧めたり、訪問した先で、〝あそこの娘さんに縁談があるようだ〟という噂(うわさ)を耳にしたら、花嫁さん用の反物を持って、訪ねたりしておられる方だったんだね」

 高村が説明した。

「地元に密着した商売のようですね」

「そうだね、コミュニケーションが大切な商売といえるだろうね。ところがある日、その方が〝取り込み詐欺〟の被害にあってしまわれたんだ」

「〝取り込み詐欺〟?」

「この商売も信用第一だから、ふだんは、馴染(なじ)みの方の紹介があって、訪問先を決めておられたんだけど、ある時、たまたま初めての家を訪ねられたんだ」

「新規開拓ですね」

「そう。新規の家を訪ねて、結婚間近のお嬢さんはいらっしゃいますか? と尋ねたそうだ。すると、実は娘には結婚したいという相手がいて、今、話が進んでいます、という返事だったんだね。それでSさんは、よかったら一度お嬢さん用の反物をご覧いただけませんか? と勧められた。するとその相手は、娘が勤めから帰ってきたら見せて、もし気に入ったのがあればお世話になりますので、その反物を預からせてもらっていいですか? ということになったんだね」

「なるほど」

「新規のお客さんだったけども、その時は馴染み客同様に信用して、二、三日してからまた伺いますので、と反物を五本預けて帰られたんだ」

 大地は頷(うなず)きながら高村の説明を聞いていた。


「Sさんは数日後、約束通りまたその家を訪ねられた。すると、反物を預けたご婦人が玄関に出てきて、〝どなたですか?〟だって」

「えぇ~!」

「最初は冗談かと思って、いや、先日お嬢さんのための着物の見本にと反物をお貸ししましたけども…、と説明したら、そんな物は知りません、とシラを切られたというんだよ」

「え~、ひどい話だなあ!」

「まったくね~。それで〝渡した〟、〝預かってない〟、と押し問答になったけど、らちが明かないので、とりあえずその家を出たそうなんだ。でも、何とかしたくて警察へ行かれたんだね」

「警察に訴えたんですね。で…?」

 大地が興味深げに訊(き)いた。

「ところが警察では、反物を渡したという証拠がありますか? と訊かれた。でも、何もないわけでしょ。自分は何十年もこの商いをしてきて、信用商売だから、預かり証なんかは今までもらったことはありません。だからその人にももらってないんです、と説明したわけ。すると警察では、証拠がないなら、警察としては動けないですね、と取り合ってもらえなかったんだね」

「確かに、そうなりますよね」

「でもSさんは悔しくて、何とか反物を取り返したくて、今度は知り合いを通じて、弁護士に相談されたんだよ」

「反物五本といったら相当高価でしょうからね…」

「そうだね。でも残念ながら、弁護士も警察と同じ対応で、受けてもらえなかったそうなんだよ」

「やっぱり」

 大地は頷いた。


「そんな時に、私がその近くの支部に行ったものだから、身の上相談にお見えになったというわけなんだ」

「でも、それは難問ですね」

「そうなんだよ。いろいろ経緯をうかがってから、どうしたらいいんでしょうか? と訊かれたわけだけど、私もまだ若かったし、具体的にどうすればいいのか、即答できなかったんだよ」

「警察もダメ、弁護士もダメとなると、素人ではどうにもなりませんよね」

「大地君、そうなんだよ。それに、詳しく状況を訊くと、とても気の毒なことでね」

「というと?」

「Sさんはご主人を早くに亡くされて、呉服の行商をしながら女手一つで子供さんを育ててこられた苦労人だった」

「子供さんは何人ですか?」

「男のお子さんが二人。その当時は、上が大学生で下が高校生ということだったね」

「苦しい生活だったんでしょうね」

「そんな様子だったね。詐欺事件の後は、警察に行ったり、弁護士を訪ねたりしながらも、何回も相手の家に掛け合いに行かれたそうなんだよ」

「そうなんですか」

「するとね、相手の家を訪ねた何度目かの時、そこの息子がちょうど帰宅してきたことがあったんだけど、その息子は高級外車に乗って帰ってきたというんだよ」

「え~、じゃあ、その家が貧しい家庭だということでもなかったんですね。腹立つなあ~!」

「そうなんだよ。Sさんもそれを見て、はらわたが煮えくりかえったそうだ。〝自分は生活を切り詰め、いつもつつましくしてきたのに、人の物を盗(と)っている家の息子は、高級外車を乗り回すような裕福な生活をしているなんて、こんな不条理なことがまかり通るのか〟と思ったそうだ」

「そりゃあ、そうですよね」

 大地はあきれた表情になった。

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「Sさんも、その事件以来、一生懸命に神さまにお願いしておられたようで、こうおっしゃったんだ。〝先生もお祈りしていただいて、あんな人間は懲らしめてやってください〟と」

 高村は苦笑いしながら言った。

「いや、気持ちはわかるなあ~! で、先生は何と答えられたのですか?」

 大地が尋ねた。

「申し訳ないけど、私には、誰かを懲らしめてください、というようなお祈りはできませんとお答えしたんだ」

「それで……?」

「まず、決して冷たい対応だと思わないでください、と前置きしてから……。人を恨んで、神さまに何とか罰を与えてやってくださいということが、本当に正しい祈り方かと考えると、私はそうじゃないと思います。詐欺という罪は悪いことだけども、その人を恨んだり呪ったり、地獄へ落ちてしまえと願ったり、ましてや神さまに罰を当ててくださいと祈る想念は、悪い人が持っている想念と同じ世界、霊界です。だから、そうした思いを持ち続けることは、結局、悪の世界、偽りの世界に自分自身を落としてしまうことになります。それだけはしてはいけません」

「……」

 大地は無言で頷いた。

「では、神さまにどうお祈りしたらいいのかということですが、人の物を盗って平然としている相手の罪をどうぞ許してやってください、とお祈りすることです。相手の女性は、神さまのご存在を知らないから平気で悪いことをしてしまうのであって、〝神さま〟ということが分かれば悪いことはしなくなるはずですから、一日も早く改心して、自分の罪に気づくような人間に導いてあげてください、と相手を哀れむ気持ちでお祈りしていただくしか解決の方法はないと思います……とね」

「ん~、先生、それはとても難しいことですね」

「そうだな。やはりSさんも私の答えを聞いて立腹されたね」

「ですよね」

「Sさんは、先生がどんな立派な人か知りませんけど、私の立場に立ったらそんなことで納得できますか? 盗られた人間が盗った人間のことを、どうぞ救ってやってくださいなんて、祈れるわけがないじゃないですか、とね」

「普通の感情ですね」

「もちろん今はそうでしょう。でも、最後は、〝愛〟でしか、物事は善くなることはないのですよ。〝まごころ〟が神さまに通じます。〝悪〟は神さまには通じません。神さまは〝まごころ〟のある愛の祈りをお受けになるんです。相手は神さまに祈るということ、お詫(わ)びをするということを知らない。ならば道理を知っている者が、その人間に代わってお詫びをするということが大事なのです。開祖さまが人類に代わって捧(ささ)げられた祈りが、まさにそうした愛善の祈りだったんですよ…と」

「ん……。それで先生、その方は最終的には納得されたのですか?」

「もちろん、はいそうですか、とすんなり納得はされませんでした。私は、ダマされたと思って、形からでも、とにかく一週間お祈りしてみてください。私もいっしょにご祈願させていただきます、とお願いしました」


「何だかすごい話ですね。それでどうなったんですか?」

「それから一週間、私もお祈りをしつつ、教区内を巡回していました。すると一週間過ぎた時に、巡回先の主会長さん宅気付で私宛に、Sさんからお手紙が届いていたんだよ」

「何て書いてあったんですか?」

 大地は、目を輝かせた。

(続く)

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この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長