十曜の紋WEB用2.psd宗教法人大本headnametype.png

I トップページ I グローバル I お問合せ I
印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |


HOME > 教え > 暁の大地・もくじ > 第69回・『尊い祈り』

「本部に私の巡回先を問い合わせて投函(とうかん)されたのだろうけど、手紙をもらうとは思ってもいないことだったので、ドキドキしながら開封したんだよ。細かいことまでは憶(おぼ)えていないけど、とても印象的な内容だったよ」

「……」

 大地は無言で身を乗り出した。

「概(おおむ)ね、こんなことだったよ。
 ……先生から無茶(むちゃ)ともいえるお祈りをしなさいと言われて、最初とてもお祈りする気になれませんでした。でも特派の先生に言われたことだから仕方ないと思って、嫌々お祈りを始めました。やっぱり三、四日間くらいは、本当に嫌な思いでした」

「それでもお祈りされたんですね」

「……ところが五日目くらいになってきたら、だんだんと先生が言われるように、取り込み詐欺をした相手がかわいそうに思えてきました。〝人の物を盗(と)るとは哀れな人なんだなあ〟と、不思議とそういう気持ちになってきました。それから少しずつ神さまに、〝どうぞ許してあげてください〟とその人に代わってお詫(わ)びをすることができるようになりました……、ということだったんだね」


「すごいですね」

「Sさんは、反物(たんもの)を盗られたという悔しさや執着心がなかなかとれなかったんだろうね。ところがしばらく続けておられたら、〝盗られたものは仕方がない〟と、だんだんとあきらめの気持ちにもなり、執着心が薄らいできたんだろうね。それと同時に、相手に対し、〝かわいそうな人なんだ〟という気持ちが湧いてきた。でも、そうなるまでに五日くらいかかったということなんだね」

「五日間で、よくそんな思いになられましたね」

「そうだね。立派だよね」

 高村は、小さく頷(うなず)きながら話を続けた。

「……そして一週間目には、〝本当に心からその女性に代わって神さまにお詫びをする気持ちになりました〟…、と書いてあったんだよ」

「たいへんな気持ちの変化ですね」

 大地は、深く頷きながら言った。


「そして、そんな気持ちの変化があった日の朝、不思議なことが起きたんだ」

「えっ、どんな?」

 大地は、いっそう目を輝かせた。

「お手紙には、こう書いてあったんだ」

 高村は少し間を置いて、手紙の内容を大地に語った。


「……今朝、ごめんください、と誰かが訪ねてきました。誰だろうと思って玄関に出てみると、なんと取り込み詐欺をした女性が立っていました。彼女が例の反物を持ってお詫びに来られたのです…とね」

「えぇ~、そうなんですか」

「たいへん申し訳ないことをしました。つい出来心で悪いことをしてしまい後悔しましたが、お返しする勇気も出なかったんです。でも、今朝、これはどうしてもお返ししないといけないという気持ちになりました。お返ししたら済む問題でもないですし、お叱(しか)りを受けても仕方ありませんが、とにかくお返しします…と、謝罪し、反物を返してくれた、ということだったんだね」

「それは、すごいお話ですね。聞いていて鳥肌が立ちました」

 大地が右手で左腕をさすりながら言った。

69.png


「……先生から一週間お祈りをしてください、私も一週間お祈りをしますから、という言葉をいただいてお別れして、ちょうど一週間目。こんな形で反物が返ってくるなんて思ってもいませんでした。相手が申し訳ないという気持ちになってお詫びに来るとは想像もできないことでしたが、先生がおっしゃったことが本当だったんだなあと、初めて気づかされました。大変ありがとうございました…、という丁寧なお手紙だったんだよ」

「いや~、そんなことがあるんですね。びっくりしました。まごころからのお祈りが通じた奇跡的なお話ですね」

 乗り出していた身を元にもどしながら、大地は驚いた表情で言った。


「そう、私自身、そんな結末になることを想像していたわけじゃないし、一週間という期間に確信があって言ったわけでもなかったんだけど、ちょうど一週間で結果をいただいたことには、私も驚いたね」

「え、何か根拠があって一週間っておっしゃったんじゃなかったんですか?」

 大地は不思議そうな顔をして質問した。


 高村は、何かを思い出したかのような表情で、そのわけを話し始めた。

「ある時、三代さまにご面会いただいた折に、三代さまから、お祈りについてのお話をうかがったことがあったんだ。その時三代さまは、『神さまに何かお願いをするときには、やっぱり一週間はお祈りをせんとあかんでな』とおっしゃったんだよ。そのことが、Sさんの相談を受けている時に、ふと頭に浮かんだもので、一週間という期限を伝えたんだけどね。あれはきっと神さまに言わされたんだろうね」

「そうだったんですか?」

「でも本当に不思議だったね。ご祈願を一週間続けて、その朝に、Sさんの心の中から恨みや執着心がすっかり消えて相手を哀れみ、許す気持ちになられ、まごころからのお祈りができるようになったと言われた。そして、相手もその朝に、Sさんにお詫びをして反物をお返ししないといけない、と改心された」

「そうですね」

「私も、このSさんの出来事を通じて、誰であれ相手を恨んだり、呪ったりするということは、本当にいけないことなんだなあ、ということをあらためて教えていただいたし、この出来事はとても感動的な体験として鮮明に憶えているんだよ」

 高村はその当時の場面を思い出すように、言葉をかみしめながら言った。


 大地は真剣な表情で、高村の体験談に聞き入っていたが、気がついたように高村の方を見た。

「ところでSさんは反物を返してもらってから、どうされたんですか?」

 大地が、興味深げに訊(き)いた。

「手紙の内容はそこまでだったから、その後のことは定かではないんだ。でも、その手紙の様子から、きっとSさんは、相手の女性に〝もう二度とこんなことはしないでくださいね〟と言って許されたんじゃないかなあ。そして、きっと神さまから大きなおかげをいただいたことを実感されたんだと思うよ」

「そうですよね、自分の思いがこんなにも変わるものかと思われたでしょうし、それにつれて相手の気持ちも変わったということを実体験されたんですからね」

 大地は言葉を確かめるように話した。


「そうだね、正しい祈りをしていれば、それによって自分の心が変わり、自分が変われば相手も変わり、世界も変わることを体験されたと思うね」

「とっても感動的なお話ですけど、なかなか難しいことですよね。人を恨んだり、呪ったりするというのは良くないことだということは、頭では理解できます。それでも社会に出て、職場や人間関係の中で、ささいな妬(ねた)み恨みというのは、少なからず誰でもあると思うんです」

 大地が訊いた。

「そうだね。この現界に生き、仕事をして生活していく上では、ままあることだね。でもそうした思いは神さまから見たら天国的な想念じゃないんだよ。どちらかというと地獄的な想念じゃないかな。それを改心していくことが、身魂磨きなんだろうなあ」


「身魂磨き…かあ」

 大地は、高村から聞いた話を回想しながら、その言葉を小声で口にしていた。しゃべった後にあわてて周囲を見回したが、幸い近くに乗客はなく、独り言を気づかれることはなかったろうと、安心した。

 大地が乗った特急「しなの」は、多治見を過ぎていた。

 大地は手にしていた『生きがいの探求』を無造作に開いた。


 真にたまらないと思わぬ人に祈りはない。 祈れば光が射(さ)してくる

 今まで見えなかった道が見え出してくる

 その道をお進みなさい

 進むのはあなたの足で

 また行きづまったら またお祈りなさい

 祈れば光が射してくる


 この一節を読み、顔を上げて目を閉じた。

「Sさんには、まさに光が射してきたんだろうなあ」

 心の中でつぶやいた。

「自分にもきっと光が射してくるはずだ」

 そう自分に言い聞かせると、不思議と穏やかな気持ちになった。

 明日からの聖地での五日間、大地にはどんな出会いや出来事が待っているのだろうか。

(続く)

next.pngnext.png

この連載は、大本の教えをドラマ風に書き下ろしたもので、
登場人物は実在の人物ではありません。













































































▼次回更新予定

脚本担当:成尾 陽のプロフィールはこちら

成尾 陽(大本メディア愛善宣教課長)

なるお あきら:昭和34年熊本県生まれ成尾総務2.jpg
昭和55年、大本梅松塾を経て大本本部に奉職
特派宣伝使、大本青年部長などを歴任
ITVA-日本(国際企業映像協会)関西支部長
亀岡市立つつじヶ丘小学校PTA会長など(平成16年度)もつとめる。
現在、大本愛善宣教部メディア愛善宣教課長